ツゲ の山 10 月 3 週
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○自由な題名
○野山に出かけたこと


★みなさんは江戸時代の(感)
 【1】みなさんは江戸時代の大名(だいみょう)が、「加賀百万石(ごく)の大名(だいみょう)」とか、「尾張六十万石(ごく)の大名(だいみょう)」といったよびかたで、よばれているのをきいたことがあるでしょう。石高(こくだか)はその国のゆたかさ、大きさをあらわしたいいかたです。【2】加賀の国は百万石(ごく)ものお米がとれる大国です。それほどのゆたかな国を領地に持つ大名(だいみょう)、という意味です。
 ちなみに一石(いっこく)とは、約百八十リットルを意味します。それはひとりが一年間に食べる、お米の量にあたります。
 【3】武士や足軽の給料も、「五人扶持(ぶち)」「十人扶持(ぶち)」というように、お米で計算されました。五人扶持(ぶち)とは、五人のけらいがやしなえるだけのお米です。ひとり一日五合として計算されました。
 【4】昭和になって戦争中、日本には食糧がなくなり、お米は配給制になりました。生産者も消費者も、かってに売ったり買ったりすることは禁じられ、生産されたお米はすべて政府がいちど買いあげ、消費者は決められた量だけを、そこから買うようになっていました。
 【5】その、お米を買うための通帳は、長いあいだ、身分証明書のかわりでもありました。
 お米とはそれほどに、国民の生きるための基本だったのです。人々のくらしや社会のありかたが、お米を基本とすることで成り立ってきた国。【6】そんな時代が、ついさいきんまで、ずっとつづいてきた国。そのような国も世界には、ほかにありません。
 もうひとつ、たいせつなことがあります。お米はわたしたちの気づかぬところで、いつもわたしたちといっしょです。
 【7】水道のじゃぐちをひねるとき、あなたはその水がどこからくるか考えてみたことがありますか。川から、ダムから、と答えた人は、ダムにたまるそのおおもとの川の水を、考えてみてください。
 【8】日本は山がけわしく、急斜面の国です。「日本の川は、滝のようだ。」と、いわれるくらいです。雨がふっても水はいちどきに海へすてられ、あとはたちまちかわいてしまう、あばれ川なのです。それなのに、一か月も二か月も晴れた日がつづいていても、水がながれているのはなぜでしょう。
 【9】雨をしっかりと受けとめて、大地につなぎとめている、森林や水∵田があるからです。
 ふった雨が森林や水田の土にしみこみ、ゆっくりゆっくり地下を移動し、何年も何十年も、ときには何百年もかけて、やがて地表にわき出てきます。【0】そのわき水のあつまりが、ふだんながれている川の水なのです。
「森林は緑のダムだ。」
と、よくいわれます。おなじように水田も、ダムなのです。
 田植えどき、水をはった段々畑を見てください。
「なるほど小さなダムたちが、山の斜面にはりついているなあ。」
と、あなたもきっと、感心するでしょう。
 水田にたたえられたその水は、地下にしみこみ地下水になり、やがて下流にながれ出て川に水を提供してくれます。

 (富山和子著「お米は生きている」より)