タラ2 の山 6 月 4 週
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○自由な題名
○わたしの長所
★清書(せいしょ)

○お茶わん一ぱいで
 【1】お茶わん一ぱいでお米は何粒ありますか? 約三〇〇〇粒(〇・五合)だそうです。私が子供のころ、そのなかにときどきすこし黒い小さな斑点がついた粒が混じっていました。気がつくと気持ちが悪いので、はしでつまみ出したこともありましたが、たいていは気にしないで食べていました。【2】親が「とりのぞかないと、おなかが痛くなるよ」と注意をしたことはなかったからです。いつのまにか、そんな黒い斑点粒(りゅう)はなくなり、真っ白のごはんになりました。
 【3】斑点粒(りゅう)が混じっていると、見た目に悪いので、農薬を使って黒い斑点粒(りゅう)がでないようにしているのです。お茶わんに四粒(〇・一%以上)あると、二等米に格下げになり、値が下がってしまうのです。農薬を使わざるをえません。
 【4】お米にいたずらして斑点粒(りゅう)を作るのはカメムシです。ヘクサムシ、ヘコキムシとも呼ばれ、触れると悪臭を出して身を守ろうとする、小さな平べったい五角形の虫です。
 【5】夏がすぎ稲が穂を出すころ、カメムシは一部の田に飛んできて穂の乳を吸うので、被害にあった一部の田んぼの一部の粒が斑点粒(りゅう)になります。一〇アール(=一反)の田には約二三〇〇万粒のモミがあるので、この〇・一%は二万三〇〇〇粒になります。【6】これ以下にするには、計算上カメムシを六〇匹(ぴき)未満にする必要があるので農薬がまかれるのです。
 害虫と聞くと、稲を病気にしたり、収穫量を減らしたりする「悪い虫」と思いがちです。しかしカメムシはそんなことはしません。収穫量も減らさず、人間の健康をそこねない程度のいたずらです。【7】それさえ人間は許せなくなり、カメムシを害虫の仲間に入れてしまったのです。
 いまから三〇年ほど前、都市住民は、カメムシのいたずらをも許せない自分になっていることに気づかぬまま、農薬のこわさに気づき、「反農薬」を訴え、農薬を使う農業を否定しました。【8】お∵百姓さんも使いたくて使っているわけではないので、無農薬で作ってくれる人が、ごく少数ながらあらわれました。すると農薬を使っている多くのお百姓さんが、こんどは「悪い人」に見えてくるのです。【9】農薬を使わざるをえない現実は知っていても、反農薬の世論に押された農業関係者は、決められたとおりに農薬をまくことを省略する「省農薬」や、濃度をうすくすることを意味する「低農薬」にしているので不安に思わなくてよいと反論しました。【0】
(中略)
 悪循環を断ち切るため、福岡県農業改良普及所に勤務していた宇根豊さんは「虫見板」を使い、田のなかにいる虫に改めて関心を持ってもらう試みを開始しました。株をたたき、虫見板の上に落ちてくる虫を、害虫、益虫、ただの虫に見分ける能力をまずつけてもらいます。つぎに害虫が繁殖し、被害をあたえようとするタイミングを学んでもらい、そのときに農薬をまくように指導していったのです。それまでよりは時間はかかるけれど、田のなかの自然に関心を持ち、つきあえる能力を養っていくのは楽しいものです。そのうえこわい農薬の使用量が減り、健康にもよいし、経済的にも助かります。防除暦にしたがうと一三回まくところが、二〜四回になった人もいます。これだけの効果があると、運動は大きくなり、福岡県から佐賀県へも広がりました。

(森住明弘『環境とつきあう50話』)