ススキ2 の山 11 月 3 週
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○自由な題名
○寒い日や雨の日


★その日も、実験につかれて(感)
 【1】その日も、実験につかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
 それは、もめんの糸くずでした。
 【2】エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっと炉にいれてやきました。
 むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! 【3】おもったようにほそい炭素線が、みごとにできていたのです。
 エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この炭素線を、輪にしたり、ばてい形にしたりして、ガラス球(だま)の中にふうじこみました。【4】そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧の真空にしました。
「できたぞ! できたぞ!」
 おもわずさけぶエジソンを、所員たちがとりかこみました。【5】みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその電球を注意ぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
「わあっ!」
 それは、文明のあけぼのをつげる歓声でした。
【6】「おめでとう!」
「おめでとう!」
 みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、世界さいしょの電灯を見つめていました。
 【7】一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン記念日」とされています。
 この電灯は、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。【8】エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。∵
「メンロパークの魔術師が、とうとう電灯を発明したそうだよ。」
 世間は、もう大さわぎです。新聞は、毎日のように大きくかきたてました。
 【9】そして、この年の大みそか。研究所の庭の木という木には、何百こという電球がつけられました。所員が総がかりでととのえた展覧会です。
 ニューヨークからは、臨時特別列車が人々をはこびました。【0】そうしてあつまった何千という人たちの頭の上で、世紀の光が、まばゆいばかりにかがやいたのです。
 やがて、新年をつげる教会のかねがなりはじめました。そのときだれからともなく、
「エジソン、ばんざい!」
という声があがりました。観衆のどよめきは、いつまでもいつまでも、こだましました。

(「エジソン」 崎川(さきかわ)範行著 講談社 火の鳥伝記文庫より)