ニシキギ2 の山 9 月 4 週
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○自由な題名
○工作をしたこと
★清書(せいしょ)

○タケとササは花が違う
 【1】タケとササは花が違うと聞いても、そもそもタケとササに花が咲くの? と思われる方も少なくないだろう。もちろん、タケにもササにも花が咲く。タケやササは風で花粉を運ぶ風媒花で、イネによく似た花を咲かせる。【2】ただし、タケが花を咲かせるということはほとんどない。タケの花にお目にかかるチャンスはきわめて少ないのだ。
 一説には「タケは六十年に一度花を咲かせる」といわれている。【3】実際にモウソウチクでは六十七年、マダケでは百二十年の周期で花を咲かせたという記録もある。
 世にも珍しいタケの花。ところが、タケの花が咲いた後、竹林には奇妙な現象が起こる。一面に広がっていた広大な竹林がいっせいに枯れてしまうのである。
 【4】しかし考えてみれば、これは不思議でもなんでもない。植物のなかには何度も何度も花を咲かせる多回繁殖性の植物と、一度花を咲かせて種子を残すと枯れてしまう一回繁殖性の植物とがある。【5】たとえば、ヒマワリやアサガオなどは花を咲かせて種子を残すと枯れてしまう。タケも花が咲いて枯れる。これは、ごくふつうのことである。ただ、タケの場合はその周期が途方もなく長いというだけなのだ。
 【6】タケは地下茎で伸びて増えていくから、無数のタケが生えた広大な竹林が、すべて地下茎でつながった一つの個体ということも決して大げさな話ではない。【7】つまり、一本のヒマワリが花を咲かせて枯れるように、タケが花を咲かせて枯れるということは、竹林全体のタケが枯れてしまうことになるのだ。そうはいっても、いままで夏も冬も青々としていた竹林が、いきなり枯れだすのだから、大変である。【8】そのため昔の人は気味悪がって、タケに花が咲くのは天変地異の前触れだといってひどく恐れたのである。∵
 ところが、である。どうやら、それも昔の人の迷信とかたづけるわけにもいかないようなのだ。【9】タケやササが花をつけると、実際に恐ろしいことが起こることが知られているのである。
 タケやササが花を咲かせた後は、無数の種子ができる。そして、この種子をえさとするネズミが大発生してしまうのだ。【0】ネズミの妊娠期間はわずか二十日。一匹のネズミは十匹の子どもを出産し、生まれた子どもはわずか五十日で成獣となり繁殖能力を持つというから、恐るべき繁殖能力である。ただ、通常はえさの量が限られているから、えさにありつけずに死ぬネズミも多く、ネズミの数は増えすぎることもなく保たれている。しかし、えさが豊富にあり、すべてのネズミが死ななかったとしたらどうなるだろう。文字どおりネズミ算式に増加し、数カ月のうちに百倍くらいには平気で増えてしまう。そして、増えすぎたネズミはタケやササの種子を食い尽くし、やがては田畑の農作物を食べ荒して、ついには人々が大事に蓄えた穀物をも食べ尽くしてしまうのである。こうして、タケやササの花は飢饉の原因にもなってしまうのだ。
 どんな植物でも花が咲くのは待ち遠しいものだが、どうやらタケやササだけは別のようだ。どうぞ、今年もタケやササに花が咲きませんように、と短冊に願いをかけるとしよう。

(稲垣栄洋『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか』(草思社)による)