ナツメ の山 6 月 1 週
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○自由な題名
○もう一人の私、たまごを使った料理
★楽しい先生、私の父(母)

 きっとレオナは、ナットウやさし身がきらいなんだ。でも、のこしたら悪いと思って、むりして食べてたんだ。あるいは、はじめてだったのかもしれない、ナットウやさし身を食べるのは……。
「いつも、ごちそうになってすみません。あのう、これ、つまらないものですが……。」
 ある日、夕食のあとで、レオナはお母さんに、赤いリボンをかけた包みをさしだした。
 ぼくはなんだか知っていたから、ニヤニヤしながら、ながめていた。
 それは、レオナが自分で作った、壁かけだった。ボール紙に、三色(さんしょく)スミレのおし花をはり、セロハンをかぶせたものだ。
「まあ、きれい。ありがとう。さっそく壁にかけるわ。」
 お母さんは、ほんとうにうれしそうだったな。
 じつは、その三色スミレは、うちの庭のなんだけど、それはいわない約束だから、だまっていた。
 七時半ごろ、ぼくがレオナを送って、家へもどってみると、お母さんはまだ、茶の間にすわって、壁かけをながめていた。
 なんとなく、ぼくもこしをおろした。お父さんは、今夜も残業らしく、まだ帰っていない。
「ねえ。ずっと前、友だちがスミレのあるところを教えてくれたっていってたでしょう。あの友だちって、星くん?」
 ぼくがそうだというと、お母さんはやっぱり、というように、大きくうなずいて、
「このあいだ、お父さんともはなしてたんだけど、あんた、このごろ、かわったわね。星くんとつきあうようになってから。」
「そうかなあ。」
 お父さんは、一度だけ、レオナといっしょに食事をしたことがある。
「なかなか、いい子じゃないか。男の子にしては、ちょっとおとなしすぎるけど。」
 お父さん、たしか、そんなこといってたな。
「かわったわよ。おちついてきたっていうか、やさしくなったっていうか。だまってても、花に水をやってくれるし、草むしりもしてくれるし。いい影響だわ。もっとも、テストの点が悪いのは、あいかわらずだけど。」
「ずこっ。」
 ぼくはふざけて、ひっくりかえるまねをした。
 でも、そういわれてみると、たしかにぼくはかわったと思う。
 お母さんのいうように、おちついてきたかどうかはわからない。 きのうも、ろうかを走って、先生におこられたしね。
 じゃあ、どうかわったかというと――まず、学校で、みんなになにかいわれても、あんまり気にならなくなった。いいたいやつにはいわせておけ。そう思えるようになったんだ。だれがなんといおうと、ぼくはレオナが好きなんだ。だから、いいじゃないかってね。
 体育の時間に、レオナをはげましたりするのも、みんなの目を気にせず、平気でできるようになった。

「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より

○芙蓉の花の(感)
【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
【1】「先生、その話は前に聞きました!」
 僕が通う個人塾の先生は、祖父と同じぐらいの年のおじいちゃんだ。それもそのはずで、僕の母が子供のころ、勉強を習っていたというくらい昔から先生をしているのである。【2】頭ははげていて、やせているが、背すじはいつもピンと伸びている。声も大きくて、授業はとてもわかりやすい。
 ただし、先生の話はときどき脱線する。特に、好きな時代劇の話となると、前にも聞いた内容を何回でも繰り返す。【3】授業時間がつぶれると喜ぶ人もいるが、テストの直前でもそれをやるので、そのときにはみんな焦ってしまう。
 そんな先生の話の中でも、とくに強烈だったのが「海底戦車」だ。地理か歴史の授業のときに聞いた話だった。【4】冷戦時代に、ソ連が作った「海の中を走れる戦車」が、オホーツク海を渡ってはるばる日本まで偵察に来ていたのだという。当時の雑誌に、くっきりと車輪のあとがついた海底の写真が載っていたそうだ。まるで、今で言う「都市伝説」のような話である。
 【5】母に聞いた話によると、先生は、昔はとても怖かったそうだ。母もひどく叱られて、泣きたくなったことがあったと言う。それは「海底戦車」以上に、僕にとって信じられないことだった。今の先生は優しくて、叱られたことなど一度もない。
 【6】次の日、僕は先生に「うちのお母さんが、泣きたくなるほど怖かったって言ってたけど本当ですか」と、みんなの前で聞いてみた。すると、先生が突然僕をにらみつけ、低い声で、
「こんな風に泣かせてたんだぞ。どうだ怖いか。」
と凄んだ。【7】そのあまりの迫力に、僕ばかりか周りにいた友人たちも一瞬、凍りついたかのように息を飲んだ。∵
 僕たちがおびえているのに気づき、先生はすぐにいつもの雰囲気に戻って、「こういうのは疲れるから、怒らせないでくれよ」と笑った。【8】軽い冗談のつもりだったのだろうが、僕たちがその言葉に従おうと思ったことは言うまでもない。悪いことはしませんと、先生に宣誓したのだ。
 僕は大人になったら、性格はずっと変わらないものだと思っていた。しかし先生のような人でも、昔と今でそんなにも違う。【9】人間は変わっていくものなのだなあとしみじみと分かった。
 今は僕に小言を言う母も、子供のころは先生に泣かされていた。もし、母がおばあさんになったら、今度はもっと変わるのかもしれない。そのとき、僕自身はどうなっているのか、ちょっと楽しみだ。【0】

(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
 【1】芙蓉の花のめしべとおしべの位置関係は自花受粉をさけ他花受粉を求める形だったわけです。【2】もっとも、めしべとおしべの間がはなれているとは言っても、わずかのへだたりであり、こん虫が自花の花粉をめしべに運ぶこともあるでしょうから、自花受粉をさけるための確率はあまり高くありません。
 【3】しかし、もっと効果的に自花受粉をさけ、他花受粉の機会をふやすための特殊な方法を持っている両性花もあるのです。
 特殊な方法とは、めしべとおしべの成熟する時期をずらしていることです。【4】これは、雌雄異熟と呼ばれている現象で、めしべが先に熟し花粉を受精できる状態になっているのに、自花のおしべは熟していない(花粉を出さない)――こういう仕組みのものを雌性先熟(しせいせんじゅく)といい、逆の場合を雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)と言います。【5】どちらもかなり高い確率で自花受粉をさけることができますが、この確率をもっと高めるために、もう一つ変わった方法を駆使する両性花もあります。
 【6】たとえば、タツノタムラソウという花の場合は、おしべが先に熟して(雄性先熟)、花粉を出している間、めしべは、おしべの先(やく=花粉を生ずる部分)からできるだけ遠ざかるように後方に反り返っています。【7】おしべが花粉を出しつくした頃、めしべは真直ぐにのびます。雌雄異熟が時間差法ならば、この場合は高級な空間差法でしょうか。
 【8】こうまでして花が自花受粉をさけるのは、すでに述べた通り、いい種子を得るためですが、一体、なぜ自花の花粉より他花の花粉を求めるのでしょうか。
 私の仮定ですが、生命というものは、自己に同意し自己との結合をくり返している末には多分、衰滅してしまうものです。【9】そういう成りゆきを避けるために、生命はあえて異質の他者を生殖過程中に取りこむのではないか、花が他花受粉を求めるのも、異質な他者の因子と結合することで自己改造を継続してゆくのではあるまいか、そのように思うのです。【0】