エニシダ の山 2 月 2 週
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★じゆうなだいめい
○雪や氷、なわとび
○すきな人

○ところがあくる朝(感)
 【1】ところがあくる朝、かあさんゾウが目をさまして、おどろきました。バオバブがいなくて、そのかわり、ぜんぜんしらないゾウが、よこにねむっているのです。かあさんゾウは、あわててとうさんゾウをおこしました。
 【2】目をこすりこすり、そのゾウをみてとうさんゾウもおおあわて。それにしても、なんというあつかましいゾウでしょう!
 いや、それよりも、バオバブは、いったいどこへいったのでしょう。
 【3】ふたりはますますあわてて、そのゾウのおしりを、おもいきりけっとばしてやりました。もしかすると、その下じきになっているかもしれないではありませんか。かわいそうなバオバブちゃん!
 【4】けれど、そのゾウはのんびりと目をひらき、
――いたいなあ、とうさん……
 というのです。
――とうさんだって!
 とうさんゾウは、あきれてしまいました。こんな大きなゾウに、とうさんなんてよばれるおぼえはない。【5】すると、かあさんゾウが、とんきょうな声をあげました。
――まああ、とうさん、それはバオバブぼうやですよ!
――バオバブぼうやだって……。
 どうみても、ぼうやなんてからだつきではないのです。とうさんゾウより大きいくらいなのですから。
【6】――ほら、あの目の下のなきぼくろ……
 さすがはかあさんです。ちゃんと、むすこのとくちょうをおぼえていました。
――そうですよ、ぼく、バオバブですよ。 とうさんたら、じぶんのむすこをみわすれるなんて、ひどいなあ。
 【7】そんなことをいったって、この大きなゾウを、どうしてきのうのかわいいバオバブぼうやだとおもえるでしょう。とうさんゾウは、じぶんの耳をひっぱってみました。
――まだあんなことをやってる。ゆめじゃありませんよォ。
 【8】バオバブが、ふふくそうにいいました。
――ぼくだといったら、ぼくなんです。ぼくは、大きくなるのがはやいだけなんですよ。∵
 はやいといっても、はやすぎる、ひとばんでわしより大きくなるなんてことがあるものか……と、とうさんゾウは、まだほんとうにできないようすです。
 【9】しかし、そういうあいだにも、 バオバブは、どうやらすこしずつそだってゆくようなのです。とうさんゾウは、すこしずつ背のたかくなってゆくむすこをみあげなければなりませんでした。目のまえのできごとです。ほんとうにするほかはありません。

 【0】そのうちに、バオバブはとうさんの二ばいほどの大きさにもなってしまいました。ガスいりの風船でなしに、なかみもちゃんとつまったほんもののゾウです。とうさんだといっても、きみわるがらずにはいられませんでした。このぶんでいったら、あしたは、どうなることでしょう。
 とうさんゾウとかあさんゾウはかおをみあわせるばかりでした。
 
 バオバブは、そのちょうしでどんどん大きくなりはじめました。
 とうさんゾウは、むすこのかおをみるのに、えらくなんぎしなければなりませんでした。もともとくびのないゾウのこと、みあげるのはにがてなのです。
 でも、そんなことはまだよかったのです。こまったことに、バオバブのからだが大きくなるにつれて、バオバブがたべるものも、ずんずんふえてゆくのです。みるみるうちに、あたりのたべものは、きれいさっぱりなくなってしまいました。
 これでは、ゾウがものすごいいきおいでふえてゆくようなものでした。とうさんゾウは、いそいでとしよりたちのところへしらせにいきました。

 話をきいてほんきにしなかったとしよりたちも、バオバブをみると、たまげてしまいました。これが、ついこのあいだ、ほそいはなを風にふかれて目をほそめていたゾウのあかんぼうでしょうか。
 としよりたちは、イヌがウマをみあげるようにバオバブをみあげなければならないので、すっかりあわててしまいました。そして、バオバブのたべっぷりをみて、もっとあわてました。これでは、いくらたべものがあっても、たりなくなってしまう。たいへんなゾウをかかえこんだものです。
「ぽけっとにいっぱい」より(今江 祥智)フォア文庫