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 その日から、アインシュタインの、かく廃絶はいぜつ戦争せんそう反対はんたいへの努力どりょくがはじまりました。
「われわれは、戦争せんそうには勝ちか ました。けれども平和へいわ勝ちか とったわけではない。」
 博士はかせはまず、アメリカ国民こくみんに対して たい  、こう忠告ちゅうこくします。
 原子力は、人間の手にあまるほど危険きけんな力です。つぎの戦争せんそう使わつか れたら、世界せかい破滅はめつするでしょう。だから、ぜったいに戦争せんそう起こらお  ないように努力どりょくしなければなりません。アメリカ人は、世界せかいに先がけて原子兵器へいきのひみつをにぎった国民こくみんとして、このことをぜひ自覚じかくしてほしいとうったえたのです。
 博士はかせは、終戦しゅうせん直後にできた、国際こくさい連合れんごうの原子力委員いいん会の会長を引き受けひ う ました。一九四六年には国際こくさい連合れんごうに、世界せかい政府せいふをつくることを提唱ていしょうします。つまり、世界せかいから国境こっきょうをなくし、国家どうしの争いあらそ 永久えいきゅうになくそうというのです。
 けれども、そのときすでに、ソ連 れんをはじめ世界せかい各国かっこくで、アメリカに負けま じと、かく開発かいはつ競争きょうそうがはじまっていました。
 こうなると、アメリカもだまってはいられません。一九四八年、トルーマン大統領だいとうりょうによって、こんどは「水爆すいばく水素すいそ爆弾ばくだん)」の開発かいはつ命令めいれいされました。
 かく開発かいはつ合戦がっせんはいよいよ過熱かねつし、世界せかいはアメリカがわソ連 れんがわにわかれて、にらみあうようになりました。
 人間のおろかさに、博士はかせ深くふか むねをいためました。そして、あるときたずねてきた日本人の記者きしゃに、「敗戦はいせん国日本の国民こくみんには、心から同情どうじょうします。けれども、勝っか た国々もいま、それ以上いじょう苦しいくる  道を歩んでいるのです。」と、しみじみ語りました。博士はかせは、原子力発電はつでんしょをはじめとする、原子エネルギーの平和へいわ利用りようについても、かなり慎重しんちょうな考えをもっていました。
 一九四五年『アトランティック=マンスリー』という雑誌ざっし
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は、つぎのように書いています。「……原子力が将来しょうらい人類じんるいに大きな恵みめぐ をもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。原子力は脅威きょういです。」
 人間は、原子力を発見はっけんできたのに、どうして、それを管理かんりできないのでしょう、ときかれると、「それは、政治せいじ物理ぶつり学よりむずかしいからですよ。」と、皮肉ひにくをこめて、答えています。
 
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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