a 長文 12.1週 nu
 天井てんじょうゆかがひっくり返って、天井てんじょうが近づいてきた。一秒、二秒、三秒……、自分で数を数える。八秒。体の力が抜けぬ た。またひっくり返って、今度はゆかが近づいた。同時にぼくは思った。
「これで大丈夫だいじょうぶだ。目標を達成したぞ!」
 夏休みの課題の中で、ぼくの体にいちばん重くのしかかっていたのは「八木節に向けての体力作り」だった。
 八木節とは、団体だんたいでやるダンスの演目えんもくだ。その中に、両手と両足を使って仰向けあおむ のまま体を持ち上げ、ブリッジをする場面があった。
 ぼくは太っていて体が重いので、これは大変な作業だった。なにしろ、これまでやってきたブリッジでは一度もかたが上がらなかった。そのほかは確実かくじつにやりきる自信があったが、ブリッジは苦手だった。しかも、八木節は、運動会と三ツ沢みつざわ競技きょうぎ場での発表会と、二回も踊らおど なくてはならない。不安は積もっていくばかりだった。
 そんなわけで、ぼくは母にコツを教えてもらおうと思った。母は趣味しゅみでダンスをやっていたので、体の動かし方というのをよく知っていた。
 母によると、重要なのは手のつき方だそうで、ぼくは正しいつき方をしていなかったらしい。だが、母に教わった手のつき方をしても、頭はまだ上がらない。なんとか頭をついたままのブリッジだけはできるようになったので、運動会では仕方なく頭つきでやった。成功したが、満足はできなかった。
 ぼくは、三ツ沢みつざわ競技きょうぎ場の発表会までに、なんとかブリッジを完璧かんぺきにしたいと思った。頭つきだと、どうしてもかたが下がり気味で、「へ」の字型のブリッジになってしまう。ぼくは、もっときれいにやりたかった。
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 練習あるのみと思ったぼくは、体育のときも頭をつかないブリッジにチャレンジしてみたが、やはり途中とちゅう倒れたお てしまうのだった。
 ぼくは、学校から帰るときも、歩きながらどうしたらいいか考えた。
「できないわけはない。今度は手と足に全力を込めこ てやってみよう。」
 こう前向きに考えたのがよかった。
 家に帰ってカバンを置くと、さっそく考えたとおりにやってみた。仰向けあおむ て、手を正しくつく。一度深呼吸しんこきゅうをして、手足にぐっと力を入れ、一気に伸ばしの  た。かたがまったくゆかから離れよはな  うとしてくれない。手に満身の力を込めこ た。それでもかたは上がらなかった。
「できないわけない。」
 自分を励ましはげ  ながら、必死に体を持ち上げた。だんだん天井てんじょうが近づいてくる。そして、ついにかたゆかから離れはな た感じがわかった。目標を達成できたのだ。
 起き上がったとき、まるで世界そのものが自分の体とともに一回転して、がらりと変わったような気がした。
 人間は、目標を達成することで大きな自信をつけることができる。だが、そのためには、その目標をどうしても達成しようとする意志いしの力が必要だ。「意志いしのあるところに道がある」。ぼくは、英語の先生に教わったことわざを思い出した。

(言葉の森長文作成委員会 ι)
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