1天井と床がひっくり返って、天井が近づいてきた。一秒、二秒、三秒……、自分で数を数える。八秒。体の力が抜けた。またひっくり返って、今度は床が近づいた。同時に僕は思った。
「これで大丈夫だ。目標を達成したぞ!」
2夏休みの課題の中で、僕の体にいちばん重くのしかかっていたのは「八木節に向けての体力作り」だった。
八木節とは、団体でやるダンスの演目だ。その中に、両手と両足を使って仰向けのまま体を持ち上げ、ブリッジをする場面があった。
3僕は太っていて体が重いので、これは大変な作業だった。なにしろ、これまでやってきたブリッジでは一度も肩が上がらなかった。そのほかは確実にやりきる自信があったが、ブリッジは苦手だった。4しかも、八木節は、運動会と三ツ沢競技場での発表会と、二回も踊らなくてはならない。不安は積もっていくばかりだった。
そんなわけで、僕は母にコツを教えてもらおうと思った。母は趣味でダンスをやっていたので、体の動かし方というのをよく知っていた。
5母によると、重要なのは手のつき方だそうで、僕は正しいつき方をしていなかったらしい。だが、母に教わった手のつき方をしても、頭はまだ上がらない。なんとか頭をついたままのブリッジだけはできるようになったので、運動会では仕方なく頭つきでやった。6成功したが、満足はできなかった。
僕は、三ツ沢競技場の発表会までに、なんとかブリッジを完璧にしたいと思った。頭つきだと、どうしても肩が下がり気味で、「へ」の字型のブリッジになってしまう。僕は、もっときれいにやりたかった。
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