a 長文 6.1週 ma
一番目の長文は暗唱用の長文で、二番目の長文は課題の長文です。
 机の横にコピーに使った紙が積んである。裏の白いところを生かしてメモ用紙にしているのだ。何か用事を思い出すと、さっとメモをとる。計算用紙のかわりにもなるし、作文の構成用紙のかわりにもなる。折りたたんで暗唱用紙のかわりにすることもできる。一枚の薄いうす 紙が、いろいろな形で役に立つ。この紙にひとまとまりの文字を載せるの  と、文章の書かれた紙となる。手紙やレポートは、だれかに自分の考えを伝える道具だ。その道具をいちばんの土台で支えているのが、この紙とペンである。私は、この紙のように、さまざまな情報を載せるの  ことのできる教養の大きな受け皿になりたい。
 そのためには第一に、白紙のように、何でも素直に受け入れる心を持つことだ。日本の昔話に「わらしべ長者」がある。一本のわらにアブをつけて持っていた男が、そのわらしべをミカンと交換こうかんする。やがて、そのミカンを反物と交換こうかんし、反物を馬と交換こうかんし、馬と交換こうかんに家をもらう、という話だ。自分自身の教養を高めるためには、このように何でも素直に受け入れる心が欠かせない。世の中には、相反する意見や情報も多い。それらを先入観なく受け止める心の広さが必要なのだ。
 第二の方法は、逆に、素直に受け入れたものの中から、自分に必要なものを選択せんたくする勇気だ。戦争は、日本の命運を決める戦争だったが、この戦争を遂行すいこうした日本のリーダーたちが共通して持っていたものは、困難な選択せんたく敢えてあ  する勇気だった。日本が立ち上がることによって初めて東アジアはロシアの支配をはねのけ自立することができた。また、日本の勝利は世界の有色人種の自覚を促しうなが 、その後の世界史の流れを変えた。何でも受け入れる素直な心は、選択せんたくし決断する勇気と組み合わされることによって初めて価値あるものとなる。
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 確かに、自分の得意な特定の専門分野を持つことも必要だ。それは、紙で言えば、自由に書き込めるか こ  白紙ではなく既にすで 印刷された紙だろう。情報が印刷された紙には、それなりの価値がある。しかし、それは、その特定の目的以外に使うことができない。新聞紙の場合は、印刷されていても、弁当の包み紙に使うこともできるが、それは本来の用途ようととは言えない。私たちに必要なのは、たくさんの古新聞ではなく、たくさんの白紙だ。机の横に積まれたメモ用紙を生かして、自分らしい広い教養を育てていきたい。

(言葉の森長文作成委員会 Σ)
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長文 6.1週 maのつづき
 人間の生涯しょうがいは物事を学び続ける果てしない旅である。この世に生まれた瞬間しゅんかんから、人間は学び始める。いや、それ以前、母親の胎内たいないですでに学習は始まっているらしい。そして、人生八十余年を迎えむか ても、何事かを学ぼうとする。
 ある学者は、研究報告書のなかで、人間が最もすばらしい学習能力を発揮するのは生まれてからの数年間であるとのべている。なにしろ、子供は、言葉という、ホモ=サピエンスがつくりあげたもののうちで最も複雑なものを、わずかな期間で習得してしまう。言うまでもなく、赤ん坊あか ぼうは決して本能によって言葉をしゃべるのではなく、学習して覚えていくのであり、置かれた状況じょうきょうしだいで、世界中のどの言語でも覚えてしまうのである。このような幼児期における言語の習得を出発点として、幼年期から青年期へ、中年期から老年期へと、生涯しょうがいにわたって学習は続く。
 何事かを学ぶことができるというのは、生物として優れた能力をもっているしるしである。ねこや犬もものを学ぶという優れた能力をもった動物ではあるが、彼らかれ は、生涯しょうがいの早い時期に学ぶことをやめてしまっているように思われる。人間が他の動物と比較ひかくして異なることの一つは、いつまでも学び続けるという点にある。
 ものを学ぶとは、何か新しいことを知ったり、何か新しい能力を身につけたりすること、そして、それらをさらに深めたり高めたりすることである。人間が生涯しょうがいにわたって学び続けていくには、エネルギーとなる何かがなければ、それは容易なことではない。では、そのエネルギーとなるものは何か。たとえば、花の名前を一つ知ったとする。すると、野原一面に咲き乱れるさ みだ  花の中から、その花を探す楽しみが生まれ、見つける喜びが生まれる。もっと多くの花の名前を知れば、探す楽しみや見つける喜びは増大することになる。つまり、このような楽しみや喜びが、エネルギーとなるのである。
 それぞれ、学び方や学びとるものの違いちが はあれ、このエネルギーが、さらに学習意欲をかきたてる。学校や家庭での勉強だけが勉強ではない。人生のさまざまな場面で、さまざまな状況じょうきょうのなかでいつも勉強がある。学ぶエネルギーを実感するためにも、人間は、いつまでも学び続ける人生を送るのである。人間が味わう
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充足じゅうそく感や感動の大半は、ものを学ぶことから生まれるのではなかろうか。

(注)ホモ=サピエンス…人間の動物学上の名称めいしょう
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