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日本人にはボランティア精神が希
アジサイの広場
武照あよ高2
 ティラノサウルスの発掘作業を振り返って、ロッキー博物館のジョン・ホー
ナー博士は言う。「今回の発掘の時、資金の乏しい博物館で雇うことが出来た
のは、たった三人の技術者だけでした。発掘に携わった数百人のうちのほとん
どはボランティアだったのです。ある時彼らは私に、何か必要なものがあるか
と尋ねました。私は冗談で、町からここまでの道があればなあと答えました。
すると驚いたことに、ボランティアの人達は、石をどけ、地面を馴らし、トレ
ーラーが一台通れるだけの道を作ってしまったのです!」
 
 アメリカ古生物学の発達は、一つには豊富な化石、もう一つには意識の高い
ボランティアにあったと言えるだろう。日本では大学の授業の一環としての発
掘ボランティアはあっても、個人単位でのボランティアはいないに等しい。し
かし日本は、そもそも国民性としてボランティア精神は豊富なのである。長野
オリンピックでは、ある日本人が五百円玉を落とし物係に届けたとの話しも聞
く。にもかかわらずボランティア活動が他国に比べ遅れているというのも事実
なのである。
 
 日本においてボランティア活動があまり表に出てこない背景として、一つに
は、ボランティアを「規制」によって、肩代わりさせることが福祉社会である
と考えられているという点がある。バスにはシルバーシートと言うものがある
。これはシルバーシートという規制によって、老人が必ず座れるようにするも
のであるが、このようなガラス張りの空間を作ることによってボランティア精
神が育つかどうかは疑問である。誰もが譲り、譲られているのだというお互い
様の精神がボランティア精神であるとすれば、このシルバーシートは「譲るべ
き」という考えの育たぬ年少者と「譲られている」という感覚を持たぬ年長者
を生み出すばかりではなかろうか。
 
 もう一つの背景として資本主義自体がボランティアの育ちにくい環境である
と言うことである。ドイツでは学校教育と国家の保護によって、特に自然環境
の分野においてボランティアが盛んであるが、現在ユーロ導入に伴ってそれが
揺らぎつつあると言われる。ドイツでは国の援助により風力発電を行なってい
るが、ユーロの経済統合によって他国からの安い電気がはいってきた時勝ち残
れるかどうかが悩みの種となっている。手塚治虫プロダクションが倒産した時
、ある評論家は「手塚治虫は虫プロという組織を作った段階で作家としてのボ
ランティア精神を捨てるべきだった」と言ったように、資本主義においては、
ボランティアが大きな組織として発達しにくいと言えるであろう。
 
 確かにボランティアが発達していなくとも、日本では比較的住みやすい社会
が保証されているかもしれぬ。しかし地域社会化の推進、高齢化社会、これか
らの日本の国際社会に果たして行く役割、等の国家では対処しにくい問題を考
えた時小回りの利くボランティアの役割はますます重要なものとなって行くで
あろう。
 
 現在十数体のティラノサウルスがアメリカで見つかっているが、古生物学者
の発見したものはたったの一体に過ぎない。ロッキー博物館ではジャック・ホ
ーナーによって復元されたティラノサウルスが飾られ、世界中の人々がその化
石を見るために集ってくる。ボランティアの果たした役割は計り知れない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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