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あれはいつだっただろうか………。確かあの日は春の中頃だっただろう。中川
さんのおじちゃまが、怪我で倒れてしまったのは…………………………………
……………………。
 
 確か父を家において母と私で鵠沼のおばあちゃまの所へお泊りに行った。そ
の「おばあちゃま」というのは、友達がたくさんいて(その友達はおばあさん
だけど)得に中川さんという方が友達だった。また、お泊りに行って一日目は
特に何もなかったが、二日目の出来事だった。朝はおいしいおばあちゃまの作
った料理を食べ、あばあちゃまはコーラスに公民館へ出かけた。おじいちゃま
は音楽を聞きにラジオのある二階へ口笛を吹きながら行った。
 
 皆がそれぞれ楽しそうになにかをやっているが、何かが物足りなかった。…
…そうだ、そういえば、おばあちゃまに行く所それぞれ、必ず事件が待ってい
た……。
 
 夜の七時…、誰もがおばあちゃまを待っていた。じいじはどなった。
 
 「一帯なんでこんなに遅くなるんだよ、ただの一,二時間くらいのものじゃ
ないかコーラスなんてぇ。」
 
 「そうよ遅すぎるわよ。…でもなんか中川さんとお茶を飲んでから帰るって
言ってたような気がするわ…。」
 
 「だとしても遅いぞ!」
 
 お母さんとおじいちゃまはしばらくぶつぶつ言っていた。私はぼうぜんと見
ていた。そして、文句を言っている間に電話がかかった。母は走って電話にと
びついた。
 
 「もしもし、石山ですが…。」
 
 電話相手はあせった顔をして言った。その声は私の耳まで聞こえた。
 
 「あ、あの中川さんのおじちゃまが転んで近くの○○病院に運ばれたんです
が、石山さんは中川さんの知りあいだそうですけど、電話かけてこのことを知
らせてあげてください。確か石山さんと出かけたそうですから。」
 
 「は…、はいわかりました。電話番号知ってますから。」
 
 こうして電話は切れた。
 
 「一体どうしたんだ。」
 
 おじいちゃまは何も知らずに二階から降りてきた。そのおじいちゃまの顔を
見て母は答えた。
 
 「中川さんのおじちゃまが転んで病院に運ばれたんです。」
 
 「ええ!なんだと!それを知らずにあいつ、のんきにお茶飲んでるのかよ。
 
 「そうみたいだわ……!ああ!」
 
 母は泣きそうになっていた。私はただ一人ぼうぜんと立っていて(大人の世
界はなんて青春だらけなんだろう)と思うだけだった。
 
 そしてついに家のベルが鳴った。
 
 「ただいま、遅くなってごめんなさい。あのね、この前中川さんにカレーラ
イス作って
 
 あげたことあったでしょ、中川さんおいしかったんだって。また食べたいん
だってさ。
 
 ほら、朝方食べたカレーのこってるでしょ。」
 
 何も知らないような口調でのんきにおばあちゃまはお皿に残ったカレーライ
スを注いだ。
 
 中川さんはカレーライスが食べられるのかと思ってわくわくしていて、おば
あちゃまはうれしそうにしていた。おじいちゃまはあのことを言いかけた。し
かし笑顔の二人を見てこの笑顔が涙に変わるのかと思うと、言えなかった。
 
 「な、中川さん………………。」
 
 母は話した。おばあちゃまはお皿を机の上に置きながら、母の話を聞いた。
 
 「中川さん、あの中川さんのおじちゃまが転んで○○病院に運ばれたんです
。」  
 母の声は何と緊迫した声だったか。笑っていたおばあちゃまも、カレーライ
スを楽しみにしていた中川さんも、開いた口がふさがらなかった。やがてその
顔からはぽろっと一粒の涙がたれた。中川さんは何も言わずに、カバンを手に
持って病院に急いだ。その時中川さんは確かに叫んだ。
 
 「明日このカレーライス取りに行きますから。」

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