吾一はそとへ遊びに行きたかったが、あいにく、おっかさんもいないので、買ってきたものを、置きっぱなしにして行くわけにはいかなかった。こんなにしていると、焼きイモがつめたくなってしまう。彼はさめないようにと思って、袋のままふところに入れて、あっためていた。しかし、おとっつぁんも、おっかさんも、なかなか帰ってこなかった。
と、えりとえりの合わせ目から、なんともいえない香ばしいにおいが、ほど合いのあったかさを持って、ぽうっとのぼってくる。吾一は大いに誘惑を感じたが、思いきって、両方のえりをぴしんとかき合わせて、顔を横のほうに向けていた。それでも、あごの下のほうから、香ばしいにおいがあがってきたが、彼は目をつぶって、がまんをしていた。すると、今度は焼きイモのぬくもりで、おなかがだんだんあったかくなってきた。あったかになってくると、腹がときどきガマのように、グーと、うなりだした。
そのころ、吾一はおやつをたべていなかったから、わけても腹がすいていた。お小づかいをもらわないわけではないけれども、小づかいはなるたけ貯金するようにと、学校の先生から言われて以来、それを実行しているのである。しかし、三時ごろになると、毎日おなかがすいてたまらなかった。けれども、そこを我慢して、小づかいをつかわないようにしなくてはいけないのだと思って、こらえているのである。しかも、これをたべたところで、貯金は少しもへるわけではない。あごの下からは、あい変わらず香ばしいにおいが鼻を突いてきた。焼きイモのにおいというものは、特別、鼻を刺激する。
「おだちんに、一つぐらい、いいだろう。」
とうとう、こらえられなくなって、吾一は袋の中に手を突っこんだ。
きょうのは丸やきなので、わけてもうまかった。彼は夢中で一つたいらげてしまった。一つたべると、前よりかえって食欲が増してくる。と、ひとりでに手がふところの中にはいって、また一つ取
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