「おかあさん。私、みかんをいただきたいわ。そんなに、たくさんでなくてもいいのよ。」
「でも、おとうさんが、どうおっしゃるか……」
かの子は、友だちのだれよりも、自分は幸福だと思っています。
例えば、町のお店では、今ごろとても手に入れられないようなみかんも、かの子は、病気の友だちに、持って行ってあげることができるのです。
そこでふと、かの子は思いました。
「あたし、みかんをどのくらい、おとうさんにおねだりしようかしら?」
その時、かたことと、おとうさんのくつ音――。
「おとうさん、お帰んなさーい。」
かの子は、茶の間をつききって、玄関にむかえ出ました。
けれども、どうしたのか、おとうさんはいつもとちがって、おこったような顔つきをしています。
おかあさんも、台所から出てきましたが、すぐ、おとうさんの顔色に気がついて、
「気分でも、お悪いんじゃありません。」
「なーに。そんなことはないよ。」
おとうさんは、自分でやっと自分のきげんが悪いのに気がついたように、きまり悪そうに笑いました。
やがて、着がえをしたおとうさんは、茶の間の食卓の前にすわって、「ほう、おいしそうだな。」
おとうさんは、手作りの野菜サラダが、何よりも好物だったのでした。
食卓には、野菜サラダのほかに、さかなのフライも出ていました。おとうさんは、それをおいしそうに食べます。
かの子は、おとうさんは、病気でなかったのだと安心しました。そして、「ああ、おいしかった。」と、おとうさんがはしを置くのを見て、思い切って言いました。
「おとうさん。私に、みかんをくださいな。たくさんでなくていいの。」
すると、おかあさんも、
「少しで結構ですから、やってくださいません。」
ところが、それを聞くとすぐに、お父さんの顔色は、また、
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