a 読解マラソン集 5番 その夜も洗面所で te3
 その夜も洗面所せんめんじょで歯ブラシを使っていたら、ガラス戸いちまい向こうの風呂ふろ場で、子どもたちが、喋っしゃべ ていた。 
 まず中学一年の兄貴あにきが、少し大人っぽい口調ではじめる。 
「うちのとうちゃんは、このごろ、ちょっと、おかしいと思わんか。」 
「そうや、そうや。」 
 だいたいがイエス・マン風の小学四年の次男は調子がいい。 
「とうちゃんは、自分で、子どものことが専門せんもんや、子どもの味方やと、いばっとるけど、とうちゃんのいう子どもとは、よその家の子どものことと違うちが か。」 
「そやそや。ぼくら、うちの子を、あまりかわいがってくれへんわ。」 
「帰ってくるのが遅いおそ 、いうのが、第一まちがっとる。それに、よう外泊がいはくしよる。」 
「日曜でも、あれは何や。仕事です原稿げんこうかきます、とか何とかいうとるけど、自分の部屋で、ぐうぐう眠っねむ とるのやで。どこにも連れつ ていってくれへん。」 
「つまり、とうちゃんのいうとる子どものなかには、ぼくらは、はいっとらん、いうわけや。」 
 やつらはなかなか手きびしい。 
 なるほど、わたしはあまり早く帰宅きたくするとはいえないし、帰らない日も少なくないのである。 
中略ちゅうりゃく) 
 そのときは、それで終わったのだが、やがてしばらくすると、わたしの部屋へ、そろってやってきたのである。というより、兄貴あにきの方が、あまり乗り気でない次男をひきずって、いわゆる団体だんたい交渉こうしょうにきたものとみえる。 
「おとうちゃんに、聞くけどな。」 
 兄貴あにきから、きりだしてきた。 
「まいばんおそいのは、仕事や、というとるけど、何の仕事しとるのや。」 
「まだ、わかっとらんな。とうちゃんはな、何十万、何百万という子どもたちのためにな、ほねをおって、りっぱな影絵かげえやらアニ
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メーションやらの製作せいさくをしとるのやぞ。」 
 おとなげないと思ったが、わたしももんきりがたに、むね張っは てみせた。もちろん、わたしが遅くおそ なるというのは、こういうことだけではないのだが、勤めつと のことや研究室の仕事など説明せつめいしてみても、はじまらない。彼らかれ 向けの言い方をしてしまう。 
 「いいか。世のなかの子どもたちは、とうちゃんの仕事のおかげで、どんなに、たのしい目をしとるか、わからんのやぞ。」 
 だが中学一年ともなれば、こういうハッタリじみたこけおどしには降参こうさんしない。 
 「何十万何百万のよその子どものために、ぼくらギセイになってもええというのか。」 
 ときた。やはり焦点しょうてんのあった、つくべきところは、ちゃんとついているという感じである。しかし、ゆきがかり上、わたしも、ひきさがるわけにはいかない。 
「ゼイタクをいうな。そんなとうちゃんと、同じ家で住んでいられるだけでも、ありがたい、名誉めいよあることやと思って、よろこべ!」 
 このへんは、いうまでもなく漫才まんざいのつもりなのだが、急に、これまで黙っだま ていた次男が口を出した。 
「そうやそうや。ぼく、おとうちゃんの言うのん、正しいことやと思う。」 
 わたしは、ちょっとドギモをぬかれたように、次男の顔をみた。次男は相当気弱な子どもで、さきほどの風呂ふろ場でのやりとりを、わたしに聞かれたことに、よほど負い目を感じているらしい。 
 そういう、しおらしさが、かわいそうになって、 
「弟のほうが、ずっと、ものわかりがええやないか。」 
 適当てきとうにほめてやると、兄貴あにきはフンぜんせきをたった。 
うらぎりもんめ。おまえは、すぐ、とうちゃんに、ごまかされよる。話にならん。」 
 そして、どんどん二階の勉強部屋へ駆けか あがってしまった。 
 そんな兄貴あにきのようすをながめながら、次男は気のいい小さな笑いわら をみせた。 
「こいつは、かわいいやつや。」
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読解マラソン集 5番 その夜も洗面所で のつづき

 
 わたしは頭をなでてやりたいくらいだったが、かれの作文を担任たんにんの先生に見せられて、あきれかえった。 
 ぼくのおとうちゃんは、おおげさで、にぎやかで、しりたがりやで、おこりんぼです。 
 こういう書きだしで、その一こうずつ実証じっしょうするかのように、具体てきな事実を、ぬけぬけと書いているのだ。 
 たとえば「おおげさ」という条はじょう 、こういう調子である。 
 影絵かげえなんかするとき「これは日本一のスクリーンでやってんのやぞ」と、ものすごく、いばった顔つきで、いいます。京都会館でみると、きれいやなあと思うけど、ほんまに日本一やろかと思います。 
 また、七度五分ほどねつがでると、「へんとうせんで、こえがでない」といって、大きなスズを、リンリン、リンリン、何べんもならします。 
 八度五分ほど、ねつがでたら、「ユイ言じょうを書く」いわはります。 
 ぼくは、びっくりして、心ぞうが、ドキドキしましたが、おかあちゃんは、平気でごはんを食べています。 
 バカらしいから、このあとは引用しない。しかし、とんでもないところで闇討やみうちにあったみたいな、こころおだやかでないへんな気持ちである。 
 しかも次男の担任たんにんの先生は、まじめくさって、ほめあげてくれるのである。 
「さすが、おとうさんにて、するどい観察かんさつをする子どもですよ。たのしみですなあ。」 
 たすけてくれ。 

(中川正文「次男の観察かんさつ」)
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a 読解マラソン集 6番 ビルや道路 te3
 一九九一年の湾岸わんがん戦争せんそうでは、原油が海にながされ、海で生きる動物たちがたくさん死にました。 
 また、空から落とされた爆弾ばくだんで、ものすごいりょうの石油が燃えも て、大気をよごしました。 
「人間たちは、どこまでやるつもりなの? まいったなあ。」 
 さすがの自然しぜんも、最近さいきん人類じんるいのめちゃくちゃぶりにはこまりはてていたにちがいありません。 
「もう、がまんできないぞ!」 
 自然しぜんが、怒っおこ たのだと思います。 
「ここでやめないと、もっとひどいことがおこるよ。」 
 それとも、自然しぜんからの警告けいこくでしょうか。 
 地球規模きぼ温暖おんだん化、オゾンそう破壊はかい酸性さんせい雨は、怒っおこ 自然しぜんの大逆襲ぎゃくしゅうかもしれません。 
 自然しぜんがいかにだいじかは、ぼくがおとなになってから気づいたことです。子どものころは、おとなたちが、「花がきれい」とか「空がきれい」などといっているのを聞いても、そのよさがよくわかりませんでした。子どものぼくには、おもちゃで遊んだり、お菓子 かしを食べたり、友達ともだちと遊んだりすることが楽しかったので、自然しぜんのことはぜんぜん考えていなかったのです。 
 でも、年をかさねておとなになるにつれ、自然しぜんのことが気になるようになりました。 
「春かあ。そろそろサクラがさく季節きせつだなあ。」 
 季節きせつによって移りうつ かわる景色けしきを見ると、「いいなあ」と思うようになりました。 
 ぼくが自然しぜん興味きょうみをもつようになったのは、仕事も大きく関係かんけいしていると思います。 
 お天気は、自然しぜん現象げんしょうそのものです。ぽかぽかとあたたかくておだやかな春、太陽がかっと照って て暑い夏、長雨がしとしととふる秋、北風が吹いふ て寒い夜……。天気解説かいせつをしていると、季節きせつのうつりかわりがとてもよくわかります。 
 季節きせつのうつりかわりは、とても不思議ふしぎできれいです。気持ちをほ
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っとさせてくれます。 
 また、お天気の仕組みがわかってくると、ぼくたちにとって、空がとてもだいじなものだということがわかってきました。 
自然しぜんの仕組みはすごいな。スケールが大きいな。」 
「きれいな自然しぜんをこれ以上いじょう、こわしちゃいけないな。」 
 いつしか、そんなふうに強く思うようになりました。 
 みなさんは、自然しぜんについて、どんなふうに考えていますか。もしかすると。子どものころのぼくとおなじように、あまり興味きょうみがないかもしれません。 
 よーくわかります。ファミコンとかサッカーとか、おもしろいことがたくさんあるでしょうから。 
 でも、きっといつか、自然しぜんを「きれい」と感じたり、「自然しぜんはたいせつにしなければ」と思ったりするときがくると思います。そのとき、空や空気がよごれていて、緑がなかったら、とても悲しいと思います。 
 みなさんに、そんな思いはさせたくありません。 
「それじゃあ、どうしたらいいんだろ。」 
 いろいろ、考えてみました。 
 社会がここまで発展はってんしてしまうと、自然しぜんをまったくいじらないというのはむりです。でも、いじらなくてもいい自然しぜんもたくさんあるはずです。そういうところは、開発してはいけない。これからの人類じんるいには、「節度せつど」というものがだいじなのです。 
 ぼくたちおとなが、みんなの世代のためにできることがあるとすれば、たぶん、そういうことです。 
 そして、だまっていては何もかわりません。 
「海に人工てき海水浴かいすいよく場をつくるのはしかたがないけれど、自然しぜんの海岸線をこわしてどんどん大きなホテルを建てるた  必要ひつようが、ほんとうにあるのでしょうか。」 
「ゴルフ場はもうたくさんあります。これ以上いじょうは、つくらないでください。」 
 みんなが声をだして、きちんといっていくこともだいじだと思います。 

(森田正光「森田さんのおもしろ天気予報よほう」)
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a 読解マラソン集 7番 住居の形態も te3
 住居じゅうきょ形態けいたいも、近所づきあいも、教育も、社会のしくみが、むかしとくらべて、ひととひととがふれあって生きにくくなっているのは事実だ。だからといって、個室こしつにこもってしまったら、ますます友だちなんかできるはずがない。ひととつきあうということは、出会うことから始まる。実際じっさいに出会って、ああこのひとが好きす だとか、きらいだとか思うわけだ。 
 自分だけの個室こしつにいれば、だれも文句もんくをいわないし、いやな人間もいないし、居心地いごこちはいいかもしれない。でも、それは、あぶないことやいやなことをさけるシェルターにこもってしまうようなものだ。無菌むきん培養ばいようでも、おとなにはなれるだろうが、ときには外部のきんにまみれて、免疫めんえきをつけていくことも大切だ。それが、人間としてのほんとうの勉強だ。 
中略ちゅうりゃく
 友だちができない、という人生相談には、ぼくは、 
「それは、キミ自身が悪いんだ」 
 そう答えてきた。自分で、カラをこしらえているのが悪い。カラをつくって、自分の世界にとじこもって、心の個室こしつまでつくってはいけないんだ。自分の世界だけでなく、他人のことにも興味きょうみをもたないとね。 
 ひととうまく接しせっ ていくには、話術わじゅつも大切だ。ひととひととのふれあいは、話すことから始まるのだから。まだ、きみたちは若いわか から、話術わじゅつがじゅうぶんでないかもしれないが、今のうちに、どんどんはじをかきながら、それをみがいていけばいい。でも、個室こしつで、パソコンを相手にしていたら話術わじゅつなどみがけるはずないよ。 
 もちろん仲間なかまとつるんで行動して、一見、友だちがいっぱいいて楽しそうに見える子どもたちもいる。しかし、ほんとうに心の通じあいみたいなものはあるのだろうか。 
 最近さいきん、カラオケボックスが人気だが、若者わかものの様子をのぞくと、だれかがうたっているかたわらで、ほかのひとは、めいめいにカラオケの本をめくって、自分のうたう曲をもくもくとさがしている。だれもひとの歌をきいてもいなければ、まったく話をしてもいない。
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会話なんて、存在そんざいしていないようだ。あれでは、べつに友だちでなくとも、知らないひとといっしょだって同じことだ。 
 ぼくの目には、みんな同じグループのなかにいながら、それぞれが目に見えない個室こしつにとじこもっているように見えてしまう。あんなことをやっていて、楽しいんだろうか。あまり話しなれていないから、そのほうが、きっと楽なのだろう。デートのときも、あんな調子なのだろうか。なんだかとてもさびしい気がする。 
 若いわか きみたちには、どんどんいろいろなひとと会ってほしい。たくさん友だちをつくって、人間の勉強をしっかりしてほしい。将来しょうらい、社会に出たときに、映画えいがの「モダン・タイムス」みたいに、単なるたん  機械きかいの歯車のひとつとして、もくもくとはたらくしかない、ということにならないためにも。 
 歯車になりきれず、人間せい欠如けつじょした社会で落ちこぼれたチャップリン扮するふん  労働ろうどう者は、同じように社会からはみだしてしまった自分の彼女かのじょに向かって、 
「Buck up never say die、We’ll get along」 
「元気を出すんだ、死ぬなんていっちゃだめ。うまくやっていけるさ」 
 そういってはげます。 
 そう、人間せいをもったひとは、きっとうまくやっていけるのだ。だから、ひととの出会いを大切にして、自分のことをどんどん話し、相手の話にも耳をかたむけることだ。そのためには、ひとに好かす れるような素敵すてきな人間でいることもわすれないでほしい。 
 ぼくは、子どものころから、いっぱいあそんで、いっしょうけんめいに仕事をして、大勢おおぜいの友だちと出会った。子どものときに、友だちとあそんだから、今も、たくさんの出会いがあるのだと思う。無理むりをして体をこわしてしまったこともある。コツコツお金をためていたら、今ごろ、大きなビルがたっていたかもしれない、と思うこともある。
 それでも、ぼくは、お金がふえるより友だちがふえるほうがいい。そのほうが人生は楽しい。だから、これでいいのだ。 
赤塚あかつか不二夫ふじお「学校よりも人間の勉強がだいじなのだ」)
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a 読解マラソン集 8番 ゆたかみーつけっ te3
「ゆたかみーつけっ。真理子みーつけっ」 
 ひろしがさけび、みんないっせいに走りだした。駐車ちゅうしゃ場をとびだすと空気がうす青く、もう夕方がはじまっている。わーっという歓声かんせいがあがり、ひろしがカンをけって、今度はゆたかがおにになる。 
 カポーン。あちこちへこんだあきカンが、まのぬけた音をたててもう一度けられ、おにをのこしてみんなかけだした。時夫ときおは、T字路まで走って思い出したように立ちどまり、くるっとうしろをふりむいた。 
「やっぱり」 
 やっぱり、だった。青屋根のたてもののまどから、きょうもおばあさんが見ている。青屋根のたてものは、そこからへい一つへだてたキャベツ畑のむこうにあった。 
「オレ、ぬける」 
 ぽつんと言って、時夫ときおはへいによじのぼると、ひょいととびおりた。ほこっと土のにおいがする。 
「おい。どこ行くんだ。養老ようろう院だぞ」 
 背中せなかごしにゆたかの声がした。その青屋根には、ボケてしまった老人ろうじんがたくさんいるので、子供こどもたちはこわがってちかよらないのだ。若いわか 女の人の血をすって生きているおばあさんがいるとか、子供こどもの肉でつくったハンバーグが大好物こうぶつのおじいさんがいるとか、いろんなうわさがあった。 
 この養老ようろう院では週に一度、老人ろうじんたちに看護婦かんごふさんが何人かつきそって、散歩さんぽに行くことになっていた。時夫ときおとおばあさんが出会ったのも、そんな散歩さんぽの時だった。もう一ヵ月かげつほど前になるだろうか。川ぞいの道でお父さんとキャッチボールをしている時夫ときおを、おばあさんは土手からながめていた。 
「行くぞ、時夫ときお」 
 お父さんがそう言ったとき、やおら立ち上がったおばあさんはとつぜん、大きな声でこう言ったのだ。 
「あんた、トキオ、いうんか。わたしはトキ、いうんじゃよ」 
 びっくりするほどしっかりした足どりで、つかつかとちかづいてきたおばあさんはがひくく、日にやけて、やせていた。
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友達ともだちに、なってくれるかの」 
 おばあさんは破顔一笑はがんいっしょう、そう言った。 
 それから毎日、おばあさんはまどから時夫ときおを見つめていたのだ。あそびに来てほしいのかもしれない、時夫ときおは何度もそう思ったが、その勇気ゆうきはなかった。キャベツ畑のむこうの青屋根といえば、子供こどもたちにとって、おばけ屋敷やしきもおんなじだったのだ。 
 けれども、もう決心した。時夫ときおはぐっとむねをはり、キャベツ畑のまん中の細い小道を、どんどん歩いていく。 
「もどってこいよ。鬼ばばおに  あがいるぞ。」 
「ハンバーグにされちゃうから」 
 みんなの声が、うしろからきこえていた。 
 小さな玄関げんかんを入り、病院のような待ち合い室をぬけると階段かいだんがあり、まど目印めじるしにいくと、おばあさんの部屋はすぐにわかった。色あせたたたみの上に冷蔵庫れいぞうことテレビがおいてある。時夫ときお帽子ぼうしをとっておじぎをした。 
「待っとったよ。これはルームメイトのゆりこさんに、げんさんに、ひさしさん。これはわたし友達ともだちのトキオ」 
 おばあさんはじゅんぐりに紹介しょうかいし、冷蔵庫れいぞうこからジュースをだしてくれた。おばあさんが「ルームメイト」という言葉を使ったのが、なんとなくおかしくて、時夫ときおは心の中でくすっと笑いわら 緊張きんちょうが、するっとほどけた。 
「毎日毎日、カンけりしとったなあ」 
 おばあさんが言って、 
「トキさんはまた、それを毎日毎日、見とったなあ」 
 ひさしさんが言った。ひさしさんは白髪(しらが頭を短く刈っか た、色白のおじいさんだ。 
「見ていると、わたしもいっしょに遊んでいるような気がしおってね」 
 おばあさんははずかしそうに笑うわら のだった。
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読解マラソン集 8番 ゆたかみーつけっ のつづき

 ゆりこさんと呼ばよ れたおばあさんは長いかみを左がわでおさげに編んあ で、白い浴衣ゆかたを着ていた。部屋のすみの赤い座布団ざぶとんの上にすわって、一心にお手玉している。時夫ときお視線しせんに気がつくと、しずかに、ふわっと笑っわら た。小さな、白い、あどけない顔だった。 
「アイスクリームがあるからおあがり。あんたのために買うといたに」 
 おばあさんが言った。紙のカップに入ったバニラアイスはかちかちにかたまって、冷蔵庫れいぞうこのにおいがついていた。ずいぶん前から買ってあったんだな。時夫ときおはそう思いながら、さっきからまどのそばでたばこをすっている、げんさんというおじいさんの横顔をちらりと見た。むっつりして、少しこわい横顔だった。 
「テレビ、みようか。そろそろ大国がでるころだな」 
 ひさしさんが言った。 
「大国? だめだめすもうは桝田ますだ山だよ」 
「おっ、しぶ好みこの だな」 
 おすもう好きす のひさしさんと、やっぱりおすもう好きす 時夫ときおとはすっかり意気投合し、ハンバーグなんてうそばっかり、と、時夫ときおは心の中でつぶやいた。 

江國えくに香織かおり「つめたいよるに」)
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問題

te-02-4 問題1
問1 読解どっかいマラソン集5番「その夜も洗面所せんめんじょで」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A この兄弟は、「どこへも連れつ ていってくれへんとうちゃん」に不満ふまんを持っている。 
B 「わたし」は、風呂ふろ場での子供こどもたちのやりとりを聞いて、自分のことを深く反省はんせいした。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答1

te-02-4 問題2
問2 読解どっかいマラソン集5番「その夜も洗面所せんめんじょで」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A 次男は、気が弱いのでいつも学校でそんをしている。
B 次男は、父親を心から誇りほこ に思っている。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答2

te-02-4 問題3
問3 読解どっかいマラソン集6番「ビルや道路」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A ぼくは、子どものころは自然しぜんのことを考えていなかったが、大人になってから気にかかるようになった。
B ぼくは、子どものころから「花がきれい」「空がきれい」などというときのよさがわかっていた。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答3

te-02-4 問題4
問4 読解どっかいマラソン集6番「ビルや道路」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A 社会が発展はってんしても、自然しぜんをまったくいじらないで暮らしく  ていくことはできる。
B おとなが、子どもたちの世代のためにできることは、環境かんきょうのための教育をすることだ。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答4

te-02-4 問題5
問5 読解どっかいマラソン集7番「住居じゅうきょ形態けいたいも」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A 人間のつきあいは、まず出会いから始まる。
B ひととうまく接しせっ ていくには、話術わじゅつではなく心が大切だ。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答5

te-02-4 問題6
問6 読解どっかいマラソン集7番「住居じゅうきょ形態けいたいも」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A チャップリンは、映画えいが「モダン・タイムス」の中で、歯車になりきれない労働ろうどう者を描いえが た。
B 自分のことはあまり話さず、相手の話に耳を傾けかたむ てあげることが大切だ。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答6

te-02-4 問題7
問7 読解どっかいマラソン集8番「ゆたかみーつけっ」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A 時夫ときおは、へいによじのぼると、養老ようろう院の庭から抜け出しぬ だ た。
B 「破顔一笑はがんいっしょう」とは、歯のなくなった顔で笑うわら ことである。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答7

te-02-4 問題8
問8 読解どっかいマラソン集8番「ゆたかみーつけっ」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。 
A バニラアイスがかたまって冷蔵庫れいぞうこのにおいがついていたようすから、おばあさんがずいぶん前から時夫ときおが来るのを待っていたことがわかる。
B 「ハンバーグなんてうそばっかり」というつぶやきの中に、時夫ときおのがっかりした気持ちが感じられる。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答8