a |
読解マラソン集 1番 ゆうれい電車 te3
「ゆうれい電車ぁ。」
「ゆうれいっ。」
「えーっ、何よ、それ。」
ぼくらは、「ゆうれい電車」ということばそのものに、こうふんして、しまった。
「ぼくひとりでさ、九回ためしてみて、九回とも同じようなことが起こった。それで、どうしてもみんなに、たしかめてほしかったんだよ。」
ぶると君だけがおちついて、説明している。
「くらいところから写真を取り出すのが、早いかおそいかで、中の電車は、横を向いたところだったり、しっぽのほうだけだったり、もう走りすぎていて、まったく写っていなかったりするんだ。明るいところでは、写真はずーっと変わらない。」
「あらやだ。わたしの耳のあなって、きゅうにふさがっちゃったのかしら。ぶると君の言ってることが、のうみそまで、ちっともとどいてこないわ。」
はら子が、自分の耳をほじってみせた。
「いやはや、はやいや、おれの頭ん中は、もう大こんらん、ぜんぶ赤信号だぜ。」
にせご君がためいきまじりにいった。ぼくも、のうみそがどろのかたまりになったような気分だった。「ざざざあーっ。」という外の夕立の音が、じかに頭の中にまでひびいてきて、のうみそまで流されそうだった。
「ぶると君の言うとおり、写真の中で電車が動いたんだとしてさ、それじゃ、この写真はいったいぜんたい、だれが写したの。ぶると君、きみが写した?」
はら子がぶると君に人さし指をつきつけた。
「ぼくじゃないよ。この写真は兄きのへやにあったのを、だまって持ち出したものなんだ。兄きか、兄きの友だちが写したんじゃないかな。まだ兄きには聞かないでいるんだけど。」
「そう。それじゃ、あなたの兄さんにじかに聞いたほうがてっとり早いわけだけど、写真がほんものなら、その元には、ほんもののゆうれい電車があるってわけでしょ。つまり、ほんものの「ゆうれい電車」がさ。」
はら子が、みんなの気にかかっていたことを、ずばり口に出していった。
「そ、そうなんだ。たしかにほんものがあるはずなのさ。そん
|
| 33 | 32 | 31 | 30 | 29 | 28 | 27 | 26 | 25 | 24 | 23 | 22 | 21 | 20 | 19 | 18 | 17 | 16 | 15 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 | 09 | 08 | 07 | 06 | 05 | 04 | 03 | 02 | 01 | |
なのが、まいばん動いているのかとおもうとね、ぼかぁ、夜中に眠れなくなっちゃうんだ。」
「ぱんっ。」
はら子が、両手をならした。
「よーし、ぶると君のなやみも、みんなのなやみも、いっぺんに解決するには、ほんものの「ゆうれい電車」をつきとめるしかないわよ。それには、まず、ぶると君の兄さんに聞いてみることね。きょう、兄きはいるの?」
「ああ、きょうは予備校を休んで、うちにいるはずだよ。」
(杉山径一「ゆうれい電車を見た!」)
|
| 66 | 65 | 64 | 63 | 62 | 61 | 60 | 59 | 58 | 57 | 56 | 55 | 54 | 53 | 52 | 51 | 50 | 49 | 48 | 47 | 46 | 45 | 44 | 43 | 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 | 35 | 34 | |
|
a |
読解マラソン集 2番 カキが、わらっている te3
「カキが、わらっている。」
花子は、そう思って木のえだに足をかけた。カキの実の皮がさけて、そこが黒くなり、ちょうど、口をあけてわらっているように見えるからだ。鳥がつついたので、そうなったのか、霜かなにかのかげんでそうなったのか、わからない。そんなことはどうでもいい。あのわらっているカキの実が、あまいんだ。学校から帰って、カキの木にのぼって、もいで食べるのが花子のこのごろのたのしみだ。
きのうの雨で、カキの木はだはぬるぬるしていたが、木のぼりじょうずな花子には、たいして苦にはならない。去年、えだにつかまったまま、それがおれて、どしんと落ちたことをふと思いだしたが、そんなこともへいちゃらだ。
「そら。」手をのばして、わらったカキの実をもいだ。大わらいをしているカキを見つけては、ズボンのポケットに入れる。どろぼうポケットといって、ふくろみたいに大きい。それが、左と右についているから、たいていのものはまにあう。
大きいのを五つずつもいで、ポケットに入れた。「まだまだ入るのだが、まあ、このくらいにしてきょうはやめとこう。あしたのおたのしみー」
花子は、カキのえだをつたわって、おもやの屋根にのりうつる。屋根がわらがわれるとしかられるので、ネコみたいにはってあがり、むな木の上にまたがった。
そうして、大きな口をして、わらっているカキの実にかぶりついた。花子の口も、なかなか大きい。食べながら下を見ると、家の前の道で、七つか八つの女の子が、花子のほうを見あげている。
女の子は、緑色とべに色の水玉もようの服をきていた。水玉のふちを黒でかこんでいる。だから、ちょっとステンド・グラスみたいな感じだ。
花子は、あまいしるをたのしみながら、女の子の服地のもようを見ていた。
カキの実を、二つ食べてしまい、三つめを手にしたとき、女の子は、まだ、そこをうごかないでいる。
「あの子、カキをほしいんだな。」と思った。見たこともない女の子だけれど、花子は、屋根の上から声をかけた。
「これ、落としてあげるから、うけなさいよ。」
女の子は、なんのへんじもない。聞こえないようでもある。そこで、花子は、もういちど大きな声でさけんだ。
「ほら、これ、落としてあげる。うまくうけなさいよ。」
そうして、右手でソフトボールのたまをなげるような、モーションをしてみせた。女の子は、べつに両手をあげて、うけとる
|
| 33 | 32 | 31 | 30 | 29 | 28 | 27 | 26 | 25 | 24 | 23 | 22 | 21 | 20 | 19 | 18 | 17 | 16 | 15 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 | 09 | 08 | 07 | 06 | 05 | 04 | 03 | 02 | 01 | |
ようなかっこうもしない。
「こわいんだな。あんな小さな女の子に、ここからなげたのじゃ、すこしむりかな。」
花子は、またネコになって、そっと屋根をはいおりて、カキの木をつたわり、そこからするすると地面におりてきたが、カキの実はうまくつぶれなかった。
(石森延男「カキ」)
|
| 66 | 65 | 64 | 63 | 62 | 61 | 60 | 59 | 58 | 57 | 56 | 55 | 54 | 53 | 52 | 51 | 50 | 49 | 48 | 47 | 46 | 45 | 44 | 43 | 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 | 35 | 34 | |
|
a |
読解マラソン集 3番 正三と石を投げた少年とは te3
正三と石を投げた少年とは、とうとう顔をつき合わせるところまできてしまった。
「おい。」
さきに声をかけたのは、相手の少年だ。
「いま、なんていった。」
すごい顔をしている。
正三は、はじめ自分と同じ年くらいと思ったが、近くで見ると、相手はどうも五年生か六年生くらいの大きさだ。色が黒くて、とても意地の悪そうなやつだ。
(これは、やっかいなことになったぞ。)
正三は、ほんとういうと、すこしこわくなってきた。けんかをやれば、むこうのほうが強いにきまっている。それに正三は、これまでけんかというものをしたことがないのだ。
(なぐられるかもしれんな。)
だが、正三はやせがまんをはった。
「石を投げるなといったんだ。」
「なに?」
相手の目がきらりと光った。
「なんだと。よけいなお世話だ。」
その声を聞いたとたん、正三の目には相手がきゅうにおそろしいおとなのように見えてきた。
(あぶない。早く逃げろ!)
正三の中で、そういう声が聞こえる。
そいつは、じりじりと正三に近づいて来た。正三はいまにもくるりとうしろを向いて走りだしたかったが、やっとがんばってそこにつっ立った。
「あれは、ぼくのひばりだ。」
正三は、自分でも思いがけないことをいったのである。
「なに? おまえのひばりだと。」
「そうだ。あれは、ぼくが飼っているひばりの子だ。らんぼうなことはしないでくれたまえ。」
相手は、おどろいて正三の顔を見た。
「おまえのひばりだと?」
相手の少年は、あきれたようにいった。
「うん。あれは、ぼくのひばりなんだ。」
断固としてそういうと正三は、ゆっくりとしばふのほうを見て、どうやらひばりの子はそのあいだに麦畑にぶじに帰ったことをたしかめると、さっさと家のほうへ引き返した。
|
| 33 | 32 | 31 | 30 | 29 | 28 | 27 | 26 | 25 | 24 | 23 | 22 | 21 | 20 | 19 | 18 | 17 | 16 | 15 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 | 09 | 08 | 07 | 06 | 05 | 04 | 03 | 02 | 01 | |
敵は正三のあとを追っかけて来るかと思ったが、「ちぇっ。でたらめいってやがる。」といっただけで、向こうへ行ってしまった。
正三はほっとした。
(ああ、よかった。あぶないところだったな。)
それから、とっさの時に、どうしてあんなことをいいだしたのだろうかと思うと、なんだかおかしくなってきた。
ふしぎなもので、こちらがへんなことをいったものだから、いまにもなぐりそうに勢いこんでいた相手のほうでは、はぐらかされて手出しができなくなったのだ。
「ああ、愉快、愉快。」
正三はしだいに得意な気持ちになって、ひとりごとをいった。
「なつめは、学校の帰りにときどき、いじめっ子に会うといってるが、あいつがそうかもしれないな。一ぱつ、くらわしてやればよかったな。」
(庄野潤三「ひばりの子」)
|
| 66 | 65 | 64 | 63 | 62 | 61 | 60 | 59 | 58 | 57 | 56 | 55 | 54 | 53 | 52 | 51 | 50 | 49 | 48 | 47 | 46 | 45 | 44 | 43 | 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 | 35 | 34 | |
|
a |
読解マラソン集 4番 誰だって失敗なんか te3
誰だって失敗なんかしたくない。
失敗することははずかしいことだと思っている。だから、なるべくなら失敗しないように、細心の注意をはらう。 (中略)
失敗することは、そんなに悪いことなんだろうか。そんなにはずかしいことなんだろうか。
私のところにアルバイトにきてくれていた女の子は、とても優秀で、なにをしても完ぺきに近い仕事ぶりだった。
そんな彼女だから、たまには小さなミスでもして、注意されたりすると、さぁたいへん、全然たいしたことでもないのに、ぽろぽろと涙を流し、その日は一日中落ちこんでいる。
これでは注意したほうもたまらない。「これ、まちがってるんじゃない?」と言い、「あっ、そうか。いっけなーい」ですんじゃう会話が、突然泣きだされ、あげくにしょんぼりされてしまってはなにも言えなくなってしまう。
実際、おこられることを極端に恐れる人がいる。おこられると思っただけで心臓がとまりそうになったり、じんわりと涙がうかんできたり……。必要以上に反発する人もいる。そういう人たちは、心のどこかで、自分がおこられるようなことをするはずがない、おこられたりする自分はゆるせない、と思っているのではないだろうか。
私が出版社で働いていたころ、おこられない日は一日もなかった。
作業がおそいといってどなられ、センスがないといってののしられ、ミスでもしようものなら、「バカヤロー」と大きな雷が落ちた。 いちいち気にしていたり、落ちこんでいたりしたら、三日もつづかなかっただろうと思う。
もちろん、あまりおこられるので、自分はこの仕事にむいていないのではないかと、けっこう真剣に悩んだこともあったけれど、なにより、それでもこの仕事が好き、という気もちが優先した。
それなら、おこられるにしても、おなじことでおこられないようにしよう。そのための改善策を考えるしかない。
|
| 33 | 32 | 31 | 30 | 29 | 28 | 27 | 26 | 25 | 24 | 23 | 22 | 21 | 20 | 19 | 18 | 17 | 16 | 15 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 | 09 | 08 | 07 | 06 | 05 | 04 | 03 | 02 | 01 | |
作業がおそいのは、手順が悪いせいではないか。センスが悪いといわれるのは、想像力がかけているからではないか。ミスが多いのは、あせりながらとりかかっているせいではないか……。
おこられるポイントを、ひとつずつ整理して考えていくと、案外挽回できるものだ。少しずつだけど、おこられる回数もへってくる。あげく、私のことをどなりつづけた雷オヤジから、こう言われた。
「おまえって、ほんとにおこりがいのあるやつだな。おまえみたいなのをおこるのは、楽しくってしかたがない」
「どういうことですか!」
さすがにむっとなる。人の気も知らないで、楽しいとはなにごとか。
「あのな。よーくおぼえておけよ。人はおこられなくなったら終わりだ。おこられることは自分をのばすチャンスなんだ。だから、おこられなくなったら、自分が見はなされたか期待されていないと思え」
彼はそう答えた。それから、私もだんだん年をかさねて、人に注意する立場になったとき、彼が言ったことの意味がよくわかった。
こちらが注意して、すぐに泣いたり、落ちこんだり、言いわけばかりする人のことは、もう二度と注意なんてしたくないと思う。
それより、多少優秀じゃなくっても、おこられたことを逆手にとってがんばる人のほうに注目する。そしてそういう人のほうが、確実にのびるのだ。
なぜ失敗したのか。どうしておこられたのか。
その理由を考え、それじゃぁこうしてみようと思うからこそ、つぎにつながる。そうして成長していくのではないだろうか。
(倉橋耀子「くよくよしないで、笑っちゃえ!」)
|
| 66 | 65 | 64 | 63 | 62 | 61 | 60 | 59 | 58 | 57 | 56 | 55 | 54 | 53 | 52 | 51 | 50 | 49 | 48 | 47 | 46 | 45 | 44 | 43 | 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 | 35 | 34 | |
|
問題
te-01-4 問題1
問1 読解マラソン集3番「正三と石を投げた少年とは」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 二人が接近したとき、最初に「おい」と呼びかけたのは、正三のほうである。
B 相手の子の投げた石は、ひばりの子に命中し、瀕死のけがを負わせた。
1 A○ B○ 2 A○ B× 3 A× B○ 4 A× B×
解答1
te-01-4 問題2
問2 読解マラソン集3番「正三と石を投げた少年とは」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 相手は自分より年上のようだ。
B 相手はひばりの子ばかりでなく、正三にも石を投げてきた。
1 A○ B○ 2 A○ B× 3 A× B○ 4 A× B×
解答2
te-01-4 問題3
問3 読解マラソン集3番「正三と石を投げた少年とは」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 正三は、何でも自分のものにしないと気がすまない、自己中心的な性格で、いつもけんかばかりしている。
B 正三は、自分より強そうな相手にはっきりと意見が言えたのでうれしかった。
1 A○ B○ 2 A○ B× 3 A× B○ 4 A× B×
解答3
te-01-4 問題4
問4 読解マラソン集3番「正三と石を投げた少年とは」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 相手は、自分もひばりの子を飼いたいと思っていた。
B 正三は、自分のひばりの子である、と最初から相手に言おうと決めていた。
1 A○ B○ 2 A○ B× 3 A× B○ 4 A× B×
解答4
te-01-4 問題5
問5 読解マラソン集3番「正三と石を投げた少年とは」の長文を読んで、次の問いに答えなさい。
「やせがまん」をはった正三の目に、相手はどのようにうつりましたか?
正しいものを一つ選びなさい。
1 おそろしいおとな
2 5年生か6年生
3 同級生
解答5
te-01-4 問題6
問6 読解マラソン集4番「誰だって失敗なんか」の長文を読んで、次の問いに答えなさい。
本文の内容に合うものはどれでしょう。一つ選んで番号で答えなさい。
1 とても優秀なアルバイトの子は、全く失敗をしなかった。
2 とても優秀なアルバイトの子は、小さなミスでも指摘されると、一日中落ち込んでいた。
3 作者は、アルバイトをやとうのは好きではない。
解答6
te-01-4 問題7
問7 読解マラソン集4番「誰だって失敗なんか」の長文を読んで、次の問いに答えなさい。
失敗すると、人間はどのようになるでしょう。一つ選んで番号で答えなさい。
1 人やものにあたる。
2 はげしく落ち込んだり、気にしないふりをする。
3 徹底的に原因を追究する。
解答7
te-01-4 問題8
問8 読解マラソン集4番「誰だって失敗なんか」の長文を読んで、次の問いに答えなさい。
作者に雷オヤジの上司が「おまえをおこるのは楽しくってしかたがない」と言った理由は何でしょう。
一つ選んで番号で答えなさい。
1 作者がおこられたことを逆手にとって、がんばる人間だから。
2 すぐにくよくよするので、いじめたくなるから。
3 あまり優秀でなく、ふざけているから。
解答8