a 読解マラソン集 5番 自由が丘の駅で ta3
 自由が丘じゆう おかの駅で、大井町線おおいまちせんから降りるお  と、ママは、トットちゃんの手をひっぱって、改札かいさつ口を出ようとした。トットちゃんは、それまで、あまり電車に乗ったことがなかったから、大切に握っにぎ ていた切符きっぷをあげちゃうのは、もったいないなと思った。そこで、改札かいさつ口のおじさんに、
「この切符きっぷ、もらっちゃいけない?」
と聞いた。おじさんは、
「ダメだよ」
というと、トットちゃんの手から、切符きっぷを取りあげた。トットちゃんは、改札かいさつ口の箱にいっぱい溜ったま ている切符きっぷをさして聞いた。
「これ、全部、おじさんの?」
おじさんは、他の出ていく人の切符きっぷをひったくりながら答えた。
「おじさんのじゃないよ、駅のだから」
「へーえ……」
 トットちゃんは、未練がましくみれん    、箱をのぞきこみながらいった。
わたし、大人になったら、切符きっぷを売る人になろうと思うわ」
おじさんは、はじめて、トットちゃんをチラリと見て、いった。
「うちの男の子も、駅で働きはたら たいって、いっているから、一緒いっしょにやるといいよ」
 トットちゃんは、少し離れはな て、おじさんを見た。おじさんは肥っふと ていて、眼鏡めがねをかけていて、よく見ると、やさしそうなところもあった。

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a 読解マラソン集 6番 アフリカのみどりの森に ta3
 アフリカのみどりの森に、あかるい朝がやってきたのに、ヒョウのとうさんは、げんきがありません。むすこのペポネのかおをみては、しんぱいそうに、くびをかしげています。そして、かあさんとかおをみあわせては、ためいきばかりついているのです。
 ふたりがしんぱいするのも、むりはない。ペポネには、ひげがちっともはえてこないのです。
 ひげのないヒョウなんて、アフリカじゅう、いや、世界じゅうさがしたって、みつからないにきまっています。
 ペポネにひげがないことは、もちろん、うまれたときからわかっていました。しかし、なにしろ、うまれたてのあかんぼうのこと、そのうちにはえるさと、とうさんヒョウは、気にもとめなかったのです。
 ところが、いつまでたっても、はえてこない。これでは、うっかりそとへつれてあるけません。なかまたちに、からかわれるにちがいありませんからね。
 かあさんヒョウは、ペポネのはなのまわりを、ていねいに、なんどもなめてやりました。
 だけどだめ。
 赤い月がジャングルの空にのぼる夜ごとに、かあさんヒョウは、月にいのりました。
 ―どんなひょろりとしたひげでも、けっこうです。どうか、はやしてやってください。
 しかし、やっぱりはえません。
 とうさんヒョウは、しかたなしに、森いちばんのものしりの大フクロウのところへ、そうだんにでかけました。
 話をきいて、大フクロウは、ホッホッとわらいながらいいました。
 ―そうさな。こんな話はきいたことがないな。さすがのわしにも、けんとうがつかぬが……そうそう、おひげのあるさかなでもたべさせてはどうかな。
 おぼれるものはワラをもつかむ、どんなことでもやってみようという気持ちです。とうさんヒョウは、ジャングルの川へとんでいきました。めざすのは、もちろん大ナマズ。

(今こう祥智よしとも「ちょうちょむすび」)
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a 読解マラソン集 7番 ベランダに、一羽のハトが ta3
 ベランダに、一羽のハトが迷いまよ こんだのは、二月まつの夕方だった。
「おーい、たつひこ、ハトがいるぞ。」
 ぼくが自分の部屋で模型もけい飛行機ひこうき修理しゅうりをしているときに、居間いまの方からお父さんの声がした。
「ちょっと待っててよ。今、大事な所を接着せっちゃくしているんだから。」
 ぼくは、水平尾翼びよくの部分を強く手でおさえてから、飛行機ひこうきをゆっくりつくえの上においた。
 お父さんが、まどからベランダの方をのぞいている。
「どうしたの。」
「ほら、あそこに……。」
 ぼくは、お父さんの肩ごしかた  に外を見た。
 お父さんが指さす先には、灰色はいいろつばさに二本の黒い線の入ったハトが、ベランダのすみで頭を胴体どうたいにうめてうずくまっていた。
「動けないみたいだね。」
「レースの途中とちゅうでつかれてしまったのかな?」
「レースって?」
「ああ、たくさんのハトを集めて遠くからいっせいに飛ばしと  競争きょうそうさせるんだよ。もし、レース用のハトならゴムのあしをつけているはずなんだよ。でも、足のところまで見えないな。」
「どうする?」
 ぼくは心配になった。以前いぜん、カナリアを飼っか ていたとき、運悪くにがしてしまい、庭のへいに止まったところをのらネコにおそわれたことを思い出したからだ。
「このままじゃ、死んでしまうかもしれないぞ。」
「なんとかしなくちゃ。」
 ぼくはまどを開けようとした。
「あわてるなよ。」
 お父さんは、ぼくのかたを後ろからおさえた。
 ぼくは、早くハトをつかまえたかった。死んでしまうかもしれないと思ったからだ。
田辺たなべ政美まさみ「ぼくらの青空通信つうしん」)
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a 読解マラソン集 8番 ぼくの友だちにも ta3
 ぼくの友だちにも、たいていおじさんがいる。おじさんというのは、つまり両親の兄弟ということで、ぼくたちは、そのおじさんのオイ、女だったらメイということなのだそうだ。
 話をきいてみると、友だちのおじさんは、けっこういいおじさんだという。どこからどこまでいいおじさんというわけにはいかないが、あるおじさんは宿題を教えてくれる。あるおじさんはいっしょに動物園へつれていってくれる。あるおじさんはお小遣いこづか をくれる。
 なかにはスポーツマンのおじさんがいて、そのおじさんは有名なスキーの選手せんしゅなのだそうだ。ジャンプの名手で、全日本大会とかいうと、そのおじさんは一等か、二等か、まかりまちがっても三等になる。一等のときは新聞に写真がでる。三等のときだって、ちゃんと名まえだけはでる。
 そういうおじさんを持った友だちは、ほんとうに幸福だとぼくは思う。いっしょにスキー場へ行けば、どんなにか得意とくいだろう。日本一か日本三の選手せんしゅに、手をとってスキーを教えてもらえるからだ。
 けれども、友だちにきくと、実際じっさいはそんなことはないそうだ。スキーを教えてくれるなんて、とんでもない。そのおじさんは自分の練習にいそがしくて、オイやメイのことなんかかまっていられないそうだ。

(北杜夫もりお「ぼくのおじさん」)
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