a 読解マラソン集 1番 海のカメレオン、タコ si3
 「人魚ひめ」に登場とうじょうする魔女まじょや、海賊かいぞく映画えいがに出てくる海の魔物まものは、なぜかタコの姿すがたをしています。外国では、「人喰いく ○○まるまる」といえば、サメではなくタコを思い浮かべるおも う   人もたくさんいます。日本人のように、タコはこっけいでしかもおいしい、と考えるのはどちらかといえば少数なのです。
 長らく怪物かいぶつ扱いあつか されてきたタコですが、最近さいきん研究けんきゅうによると、この生き物い ものは、実はじつ とても賢いかしこ ということが分かってきました。
 タコは、脊椎動物せきついどうぶつの中ではきわめて高度こうど発達はったつしたのう持っも ています。ある科学しゃは、ふたのついたびんに好物こうぶつのえさを入れ、タコに与えあた てみました。するとどうでしょう。タコは試行錯誤しこうさくごすえ見事みごとふたを回してえさにありついたのです。また、ある水族館すいぞくかんでの話では、一匹いっぴきのタコは夜な夜な排水はいすいかん伝っつた となり水槽すいそう忍び込みしの こ 、魚を食べていたということです。この動物どうぶつは、経験けいけんからいろいろなことを学習がくしゅうしていくのです。
 タコの数ある特技とくぎのうちでも特にとく 珍しいめずら  のは、その独特どくとく変身へんしんじゅつです。あまり見事みごと変身へんしんするので、海に慣れな たダイバーたちでさえ、タコのすぐそばを泳いおよ でいながらその存在そんざい全くまった 気づかないことがあります。このため、タコは、「海のカメレオン」とも呼ばよ れています。
 この芸当げいとう可能かのうにするのは、その特殊とくしゅ皮膚ひふの作りです。タコの皮膚ひふには、色素しきそ持つも 細胞さいぼうが二百万ほどもあります。一平方へいほうミリメートルあたりやく二百という数です。そして、それぞれの細胞さいぼうには赤か黄か黒の色素しきそ含まふく れています。タコは、その細胞さいぼう取り巻いと ま ている筋肉きんにく縮めちぢ たり緩めゆる たりして、無地むじになったり模様もよう入りになったりと、またたく変身へんしんします。タコは皮膚ひふ質感しつかん変化へんかさせることもできます。岩にへばりつき、皮膚ひふをそのごつごつした岩肌いわはだ似せに て、完全かんぜんに岩になりきるのです。
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 最近さいきん発見はっけんされたミミックオクトパスというタコは、さらにうわてです。形や動きうご 方まですっかりまねて、ほかの生物せいぶつそのものに化けば てしまうのです。そのレパートリーは幅広くはばひろ 、ヒラメ、ウミヘビ、エビなど何にでも変身へんしんしてしまいます。ヒラメに化けば たタコに、仲間なかま勘違いかんちが した本物ほんもののヒラメがついてくることもあります。これでは天敵てんてきもすっかりだまされてしまうでしょう。この賢いかしこ 「海のカメレオン」は、まさにアカデミーしょうものの名優めいゆうなのです。

「タコさん、人間にも化けるば  ことができるんですか。」
「さあ、それはやっタコとないなあ。」
近所きんじょのおじさんが、そうみたいなんですけど。」
「わあい、言っちゃおう。」

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Μ)
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a 読解マラソン集 2番 ウミガメの産卵 si3
 世界中せかいじゅう簡単かんたんたびすることができなかったむかしの人々にとって、ウミガメが毎年決まっき  季節きせつになると海岸かいがんにやってきてたまご産んう でいく様子ようすは、神秘しんぴてきだったことでしょう。そんなウミガメから、竜宮城りゅうぐうじょうというゆめのような話が生まれたのかもしれません。
 では、日本にやってくるウミガメには、どんな種類しゅるいがあるのでしょうか。日本列島れっとう四季しきがはっきりしているので、季節きせつによって気温きおん海水温かいすいおんが大きく変わっか  てきます。その中で、日本にたまご産みう にくるのは、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイなどのカメです。関東かんとう地方より南の海岸かいがんたまご産むう アカウミガメは、春になると日本近海に姿すがたをあらわします。アオウミガメは、屋久島やくしまより南でたまご産みう 、タイマイは沖縄おきなわ本島ほんとうより南でたまご産みう ます。
 産卵さんらん場所ばしょとなる海岸かいがんおきには、オスがメスより一ヶ月かげつも前に来て待っま ています。やがてメスがやってくる時期じきになると、オスたちはメスのあとをついてまわるとともに、オスどうしで激しくはげ  争いあらそ 、メスを奪い合いうば あ ます。かんだり、ぶつかったり、オールのような足ではたいたりと、とても迫力はくりょくがあり、水族館すいぞくかんでゆったり泳いおよ でいるときの姿すがたからは想像そうぞうもつかないほどです。その後、オスは産卵さんらん場所ばしょのまわりの海から姿すがた消しけ ます。メスは近くの砂浜すなはま上陸じょうりくして産卵さんらんします。
 お風呂ふろやプールに入ると、体が軽くかる 感じかん られます。それは、水の中につかっているものには浮力ふりょく働くはたら からです。海中のウミガメは、浮力ふりょくのおかげでおもさが陸上りくじょうにいるときよりもずっと軽くかる なります。しかし、浮力ふりょく働かはたら ない陸上りくじょうでは自由じゆうに体を動かすうご  ことができません。海から上がってたまご産むう ときには、外敵がいてきから自分やたまご守るまも こともできなければ、すばやく逃げるに  こともできません。そのため、産卵さんらんをひかえたメスは、夜になってから用心深くようじんぶか 砂浜すなはま上陸じょうりくし、安全あんぜん確かめたし  てから産卵さんらんにとりかかるのです。
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 アカウミガメは、左右の後ろ足を交互こうごにシャベルのように使っつか て、大きなあな掘りほ 、一回に百ほどのたまご産みう ます。一頭のメスは、夏の産卵さんらんの間に多いときで六回くらいたまご産みう ます。
 では、ウミガメは危険きけんをおかしてまで、どうしてりくたまご産むう のでしょう。ウミガメは、陸上りくじょうで生活できるように進化しんかしてきた爬虫類はちゅうるい仲間なかまです。爬虫類はちゅうるい乾いかわ 場所ばしょでも体の水分が外へ出ていかないように、丈夫じょうぶなウロコのような皮膚ひふで体をおおっています。たまごも、水中に産むう 魚類ぎょるい両生類りょうせいるいのものと違いちが 鳥類ちょうるいたまごのようにから包まつつ れています。ウミガメのたまごは、からを通していきをしており、水中だといきができずに死んし でしまうのです。このため、ウミガメは一生の大部分ぶぶんを海で暮らすく  ようになった今でも、たまごだけはりく産みう にくるのです。
 ウミガメのひとりごと、「わたしも、本当は、海でウミたいわあ」。

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Κ)
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a 読解マラソン集 3番 七夕の空 si3
 春の終わりお  ごろになると、はくちょう、ことなど、夏を代表だいひょうする星たちが空に現れあらわ てきます。かんむりは高くのぼり、南東の空からは、さそりがすがたを見せてきます。
 春の星座せいざは、頭の真上まうえから西の空へ移りうつ はじめ、長く横たわっよこ   たうみへびは、頭から西の空へ沈もしず うとしています。冬の星座せいざはほとんど姿すがた消しけ 、ぎょしゃのカペラ、ふたごのポルックスとカストルが低いひく 空に光っているだけです。梅雨つゆに入ると、雨が多く、しばらくは美しいうつく  星空も見えない日が続くつづ かもしれません。
 七月七日のばんささに、願い事ねが ごとを書いた紙をつるしたことがあるでしょう。七夕の主役しゅやくは、織姫おりひめということのベガと、彦星ひこぼしというわしのアルタイルです。この二つの星が天の川をはさんで光り、一年に一度いちど、七月七日のばんに会うのです。
 七夕の星まつりは、日本では平安へいあん時代じだいに、身分みぶんの高い人がにわこうをたき短冊たんざく願い事ねが ごとを書いたのが始まりはじ  です。一般いっぱんの人々が星まつりをするようになったのは、江戸えど時代じだいからです。もとになった織姫おりひめ彦星ひこぼしの話は、中国から伝わっつた  てきたものです。
 天帝てんていむすめ織女しょくじょは、牛飼うしかいいの若者わかもの牽牛けんぎゅう結婚けっこんしました。二人は働き者はたら ものなので天帝てんてい喜んよろこ でいましたが、結婚けっこんすると毎日遊びあそ つづけ、仕事しごとをしなくなりました。天帝てんてい怒っおこ て、二人を天の川の東と西に引き離しひ はな ました。しかし、織女しょくじょがあまりにも嘆きなげ 悲しんかな  でいるのを見て、天帝てんていは、二人が一年に一だけ会うのを許すゆる ことにしました。七月七日のばん織女しょくじょ牽牛けんぎゅうが天の川のきしにくると、大きなはくちょうのカササギが飛んと できてはし役目やくめをしてくれます。ところが、雨が降るふ と、カササギは飛んと できてくれません。そこで、中国の人々は、その日に雨が降らふ ないようにと七夕祭りまつ を行ったのです。
 ことのベガは、青く光る一等星いっとうせいで、五月の終わりお  ごろにはもう
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東の空に輝いかがや ています。わしのアルタイルは、ベガよりも一ヶ月かげつほど遅れおく 昇っのぼ てきます。七夕のころでも、まだあまり高い空には見えません。アルタイルも一等星いっとうせいですが、ベガほど明るくはないので、さがすには、ベガとアルタイルと、はくちょうのデネブとでできる大きな三角形を目印めじるしにします。この三角形は、デネブのところが直角で、夏の直角三角形と呼ばよ れています。

 七夕のころは、日本ではちょうど梅雨つゆ時期じきにあたります。
 七月七日が近づくと、アルタイルは、こう思います。
「今年は、ベガに会えるベガ。」
 ベガも、そっとつぶやきます。
「雨が降っふ ても、川をアルイタル。」

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Κ)
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a 読解マラソン集 4番 昆布の旨味 si3
 ドイツの心理学者がくしゃが、あじには、塩味しおみ酸味さんみ甘味あまみ苦味にがみの四つの基本きほん要素ようそがあって、どんなあじもその組み合わせでできているというせつ発表はっぴょうして以来いらい基本きほんあじについてはもうこれ以外いがいにないと思われていました。しかし、味覚みかく研究けんきゅうしていた日本人の化学かがくしゃたちは、これにもう一つ、旨味うまみ加えるくわ  べきだと主張しゅちょうしました。
 この旨味うまみ成分せいぶん発見はっけんし、初めてはじ  学会に報告ほうこくしたのは、池田菊苗きくなえ 博士はくしです。博士はくしはある日、夕飯ゆうはんを食べていて、つまが作ったお吸い物す もののあまりのおいしさに感動かんどう覚えおぼ たのです。そして、「このあじは、四つの基本きほんあじだけで出せるあじではない」と確信かくしんし、旨味うまみ研究けんきゅう取りかかりと    ました。
 お吸い物す もののだしは、昆布こんぶでとられていました。そこで博士はくしは、四十キログラムもの昆布こんぶからだし汁  じるを作り、そこから旨味うまみ以外いがいのすべての成分せいぶん取り除いと のぞ ていくという、気の遠くなるような作業さぎょう続けつづ ました。そして最後さいご残っのこ 旨味うまみの正体が、グルタミン酸     さんという物質ぶっしつであることをつきとめたのです。池田博士はくしはこれを学会に報告ほうこくするとともに、調味ちょうみりょうとして大量たいりょう生産せいさんする方法ほうほう発明はつめいしました。そしてこの旨味うまみもとは、「味の素あじ もと」として商品しょうひんされ売り出されました。
 旨味うまみ成分せいぶんは、池田博士はくし発見はっけんしたグルタミン酸     さん以外いがいにもあります。たとえば、煮干にぼししや鰹節かつおぶしのだしの旨味うまみはイノシンさん干しほ シイタケやマツタケの旨味うまみはグアニルさんです。だしのあじは外国にもないわけではありません。西洋せいよう料理りょうりには肉類にくるい香味こうみ野菜やさい煮込んにこ でとるスープストックやブイヨンと呼ばよ れるだしがあります。中華ちゅうか料理りょうりでは、とりガラや干しほ エビ、白菜はくさいやネギなど、やはりさまざまな材料ざいりょう煮込んにこ で「たん」と呼ばよ れるだしを作ります。
 このように旨味うまみ確かたし あじをよくする成分せいぶんであるとは認めみと られていましたが、旨味うまみだい五の基本きほんあじであるということは、世界せかいの人々
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になかなか受け入れう い てもらえませんでした。しかし、最近さいきんになってようやく、旨味うまみだい五のあじとして認めみと られ、そのまま「UMAMIウマミ」という用語となって世界中せかいじゅうに知られるようになったのです。
 それでは、旨味うまみは、なぜおいしく感じかん られるのでしょうか。それは、旨味うまみ成分せいぶんが、わたしたちの体を作るために欠かか せないものだからだと言われています。グルタミン酸     さんアミノ酸   さんというグループに属しぞく 、イノシンさんやグアニルさん核酸かくさん呼ばよ れるグループに入る化学かがく物質ぶっしつです。そして、この両方りょうほうともが、わたしたちの体を作るのにとても必要ひつようなものなのです。つまり、体の方で、ちゃんとこれらをおいしく、たくさん取り込むと こ ようにできているのかもしれません。
 旨味うまみ少量しょうりょうしおが入ることで、より強くなります。また、ちがうグループの旨味うまみを組み合わせることによっても、ぐんとおいしさが上がることがあります。したがって、うまく旨味うまみ利用りようすることで、かえって塩分えんぶん減らしへ  たり、よりおいしい味付けあじつ にしたりすることも可能かのうになるのです。
 ところで、昆布こんぶ旨味うまみ発見はっけんした池田博士はくしは、ロンドンに留学りゅうがくしていたとき、同じくロンドンに留学りゅうがくしていた文学しゃの夏目漱石そうせきに会っています。もしかすると、夏目漱石そうせきと、「日本料理りょうりのおいしいだしのあじ恋しいこい  なあ」などと話をしていたのかもしれません。

 旨味うまみ研究けんきゅうは、一杯いっぱいのお吸い物す ものから始まりはじ  ました。
 昆布こんぶのだしによろコンブ池田博士はくし笑顔えがおが、研究けんきゅう出発しゅっぱつ点だったのです。

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