a 読解マラソン集 5番 人に飼われる昆虫、カイコ sa3
 カイコは、じょうぶな絹糸きぬいとをとるために、むかしから人間が飼育しいくしてきた昆虫こんちゅうです。中国では、四千年以上いじょうも前からカイコを育てそだ 美しいうつく  絹織物きぬおりものが作られていました。やがて中国で作られた絹織物きぬおりものは、インド、ペルシア、トルコ、ローマなどに運ばはこ れるようになりました。そのころの商人しょうにんが通った道は、シルクロードとよばれています。ローマでは、きぬはたいへん高価こうかなものであり、同じおもさの金と交換こうかんされるほどでした。
 カイコの飼育しいくは、世界せかい各国かっこくに広まっていきました。日本でも大正時代じだい終わりお  から昭和しょうわ初めはじ にかけて、養蚕ようさんがさかんになりました。当時、カイコの品種ひんしゅ改良かいりょう進みすす 、それまでの二ばいから三ばいもの長さの糸が取れると  ようになったのです。また、自然しぜん状態じょうたいでは、カイコが生まれてくるのは春と夏の年二回ですが、季節きせつ問わと ず何でもカイコを飼育しいくすることができるようになりました。そのころ、生糸きいと絹織物きぬおりもの輸出ゆしゅつは、日本の輸出ゆしゅつ総額そうがくの半分近くを占めし ていました。
 生まれてきたカイコの成虫せいちゅう、カイコガは、羽が小さいわりにはらが大きくて、筋肉きんにくも弱いため飛ぶと ことができません。人間に飼わか れているカイコガは、野外を飛びまわっと    仲間なかまを見つける必要ひつようもなく、幼虫ようちゅう食べ物た ものであるクワの木をさがしてたまごを生む必要ひつようもありません。メスは、クワの木でなくても、手近なものに何でもたまごを産みつけう   ます。まるで、人間がちゃんと幼虫ようちゅう世話せわをしてくれることを知っているようです。飛ぶと 必要ひつようがなくなったカイコガは、飛ぶと 能力のうりょく失っうしな てしまったのです。
 生まれた幼虫ようちゅうは、クワのを食べてどんどん大きくなります。カイコを育てそだ ているカイコだなでは、幼虫ようちゅうがバリバリとクワのを食べる音が、一日中雨の音のように聞こえます。これほど食欲しょくよく旺盛おうせい幼虫ようちゅうですが、歩く力がたいへん弱く、三十センチでもクワ
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から離れはな たところに置くお と、自分でそこまでたどりつくことができません。歩いて「どこカ、イコう」とはしないのです。
 また、ものにつかまる力も弱いので、野外のクワの木にカイコを放しはな ても、生きていくことができません。人間に頼ったよ てクワをクワせてもらっているカイコは、農家のうかの人にとっては「カイコ」というより「可愛いかわい 子」なのかもしれません。
 長い間、人に飼わか れてきたカイコは、人間の世話せわなしでは生きられないようになりました。人間にとって、ほとんど動かうご ないカイコは、飼育しいくするのにたいへん都合つごうがよい昆虫こんちゅうです。
 大きく育っそだ 幼虫ようちゅうは、さなぎになる準備じゅんび始めはじ ます。人間がボール紙などで作ったわくの中に、二日ぐらいかかって厚くあつ てじょうぶなまゆを作ります。カイコのほかにも、まゆを作る昆虫こんちゅうはたくさんいますが、糸のりょうと強さでカイコにかなうものはいません。
 一まゆからは、やく千五百メートルの絹糸きぬいと取れと ます。着物きものを一ちゃく作るには、やく二千六百まゆ必要ひつようで、それだけのまゆを作るために必要ひつようなクワのは百キログラムです。
「ところで、カイコさん。クワの以外いがいは食べないんですか。」
「クワンヨ。」
(※最近さいきん品種ひんしゅ改良かいりょうでは、クワの以外いがいのものを食べるカイコも作られています)

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(κ)
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a 読解マラソン集 6番 不死身のクマムシ sa3
 クマムシの体長は、最大さいだいでも一ミリメートルぐらいです。八本のあしでゆっくり歩く姿すがたがクマにているので、クマムシと名づけられました。熱帯ねったい地方から北極ほっきょく南極なんきょくまで、深海しんかいそこから高山の上まで、地球ちきゅう上のほぼあらゆるところに生息せいそくしています。
 このクマムシは小さなスーパーマンです。といっても、空を飛んと だり列車れっしゃを止めたりするわけではありません。実はじつ 、この生き物い ものはほとんど不死身ふじみなのです。
 クマムシの体の大部分ぶぶんは水分ですが、周囲しゅうい乾燥かんそうしてくると、水分を極度きょくど減らしへ  たるのような形になって眠りねむ に入ります。
 このたる状態じょうたいになったクマムシは、宇宙うちゅう真空しんくうの中でも生き続けつづ ます。また、マイナス二百七十二という絶対ぜったいれい世界せかいでも、摂氏せっし百五十という熱湯ねっとうより熱いあつ 温度おんどの中でも生きています。更にさら 、七万五千気圧きあつという高圧こうあつ受けう ても、人間の致死ちしりょうの千ばいのX線を浴びあ ても、たるになったまま生きているのです。百二十年間眠っねむ ていたクマムシに水を与えあた たら動き出しうご だ たという報告ほうこくもあります。
 クマムシはどこにでも棲んす でいますが、採集さいしゅうするには、コケの中を探すさが のが簡単かんたんです。建物たてものかげなどに生えているコケを取っと てきて、ストッキングなど細かいあみの上に乗せの ます。コケに水を注ぐそそ と、あみの下に落ちお てくる水と一緒いっしょにクマムシも落ちお てきます。それを顕微鏡けんびきょう丹念たんねん探すさが のです。
 たる状態じょうたいになったクマムシを参考さんこうにして、人間の臓器ぞうき長期間ちょうきかん保存ほぞんする研究けんきゅうも行われています。将来しょうらい宇宙うちゅう飛行ひこうで何年も先の星に行くときには、人間もたるになって行くようになるかもしれません。
「クマムシさん、こんなに過酷かこく実験じっけんをされて、よク、マー、ムシしていられましたね。もっと厳しいきび  実験じっけんをされたらどうしますか。」
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「タルになったる。」

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Μ)
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a 読解マラソン集 7番 森の掃除屋、キノコ sa3
 秋の雨あがりの日に、林に出かけると、たくさんのキノコが落ち葉お ばの間から顔を出しています。色とりどりのキノコの中には、食べられるキノコもたくさんあります。どくキノコと食べられるキノコは、どうやって見分けたらよいのでしょう。毒々しいどくどく  派手はでな色のキノコや、いや臭いにお がするキノコはどくキノコである、くきたて裂けるさ  ものは食べられる、ナスと一緒いっしょ煮れに どく消えるき  など、むかしからの言い伝えい つた はたくさんあります。しかし、これらの多くは迷信めいしんです。キノコ中毒ちゅうどく防ぐふせ には、とったキノコを一つ一つ図鑑ずかんなどできちんと調べるしら  必要ひつようがあります。
 食用キノコの代表だいひょうは、マツタケやシメジ、シイタケなどです。「香りかお マツタケ、あじシメジ」という言葉ことばがあるように、マツタケはたいへん香りかお 良くよ 、シメジはあじ良いよ キノコです。タマゴタケは、あざやかな色をしていて、どくキノコと間違えまちが られますが、西洋せいようでは「帝王ていおうのキノコ」と言われ、おいしい食用キノコです。どくキノコの代表だいひょうは、テングタケやツキヨタケなどで、ドクツルタケは、うっかり食べると死んし でしまうほどの猛毒もうどくがあります。
 キノコの体は、地面じめんから出ている部分ぶぶんだけではありません。地下の部分ぶぶんを見ると、白い綿わたのように、細い糸がからまっているのがわかります。キノコの本体は、この菌糸きんし体という部分ぶぶんなのです。地面じめんから出ているキノコは、たいてい数日で腐っくさ てしまいますが、菌糸きんし体は何十年も成長せいちょう続けつづ ます。菌糸きんし体は、円形に広がるように大きくなっていくので、キノコもになって生えていることがよくあります。キノコりに行って、キノコを一つ見つけたら、そこから描くえが ようにキノコが生えていないか、よく探しさが てみるとよいでしょう。
 普通ふつう植物しょくぶつには緑色みどりいろ葉緑素ようりょくそがあり、太陽たいようの光を受けう 光合成こうごうせいを行い、自分で栄養えいようを作って成長せいちょうします。しかし、葉緑素ようりょくそ持っも 
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ていないキノコは、自分で栄養えいようを作り出すことができません。キノコは、カビや細菌さいきんと同じ仲間なかまで、菌類きんるい分類ぶんるいされます。では、菌類きんるいはどこから栄養えいようをとっているのでしょうか。
 キノコの生える森や林では、大量たいりょう落ち葉お ば動物どうぶつ死骸しがいなど、たくさんのゴミが出ます。しかし、森や林がゴミだらけになっていることはありません。実はじつ 落ち葉お ば死骸しがいなどのゴミを食べているのが、キノコやカビという菌類きんるいなのです。生き物い もの死骸しがい分解ぶんかいして、食べてくれる菌類きんるいは、森の掃除屋そうじやのような役割やくわりをしています。みなさんも、自分の部屋へや掃除そうじせずに、ずっとゴミを散らかしち   ておくと、ゴミの中からかわいいキノコが顔を出すかもしれません。
 植物しょくぶつ光合成こうごうせいをするには、二酸化炭素にさんかたんそなどの原料げんりょう必要ひつようです。もし、二酸化炭素にさんかたんそ補給ほきゅうしないで、地球ちきゅう上の植物しょくぶつ光合成こうごうせい続けつづ たら、数百年で二酸化炭素にさんかたんそはなくなってしまいます。しかし、植物しょくぶつは何おく年もの長い間、生き続けつづ てきました。実はじつ 、これはキノコなどの菌類きんるいのおかげなのです。動物どうぶつ植物しょくぶつ死骸しがいは、菌類きんるい酵素こうそによってだんだん単純たんじゅん物質ぶっしつ分解ぶんかいされていきます。こうして、動植物どうしょくぶつのからだを作っていた物質ぶっしつは、菌類きんるい働きはたら によって、もとの単純たんじゅんな水や二酸化炭素にさんかたんそなどの物質ぶっしつ戻るもど のです。
 そんな重要じゅうよう役割やくわり果たしは  ているキノコさんに聞いてみました。
「キノコさんは木の子なんですか。」
「いや、ぼくはキノコの子だよ。」
「すると、キノコさんの子は、キノコノコですね。」
「そう、そのまた子供こどもはキノコノコノコだよ。」
「十だい先まで言えますか。」
「キノコノコノコ ノコノコノコ ノコノコノコ……。」
「歩いて行っちゃった。」

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a 読解マラソン集 8番 命を救った犬ぞり sa3
 シベリアやアラスカといった、さむさの厳しいきび  地方で暮らすく  人々は、古くから、人やもの運ぶはこ ために、犬ぞりを使っつか てきました。シベリアン・ハスキーやサモエド、アラスカン・マラミュートといった種類しゅるいの、さむさに強く、力持ちちからも の犬たちにそりを引かせるのです。これらの犬たちは、ふさふさした毛と厚いあつ 脂肪しぼう持っも ているため、北極ほっきょくこおりの上で眠っねむ ても平気へいきです。また、長い距離きょりを走っても耐えた られる、すぐれた体力の持ち主も ぬしです。
 なかでもハスキー犬は、探検たんけん家ピアリーやアムンゼンによる北極ほっきょく南極なんきょく探検たんけん使わつか 有名ゆうめいになりました。また、ドッグレースや犬ぞりレースで、いつも優秀ゆうしゅう成績せいせき収めおさ ていました。
 あるとき、アラスカのノームという町に、ジフテリアという恐ろしいおそ   病気びょうきがはやりました。現在げんざいでは多くの国で予防よぼう接種せっしゅが行われているので、ジフテリアはほとんど流行りゅうこうすることがありません。しかし、当時はまだ、おおぜいの人が死ぬし こともある怖いこわ 病気びょうきでした。ジフテリアの症状しょうじょう抑えるおさ  には、ワクチンというくすり必要ひつようですが、この時ノームの町では、ワクチンがそこをついてしまいました。あまりに患者かんじゃが多かったからです。このままでは、人々がどんどん死んし でしまいます。
 ノームの町からアラスカしゅう政府せいふがあるアンカレッジに、助けたす 求めるもと  連絡れんらくが入りました。すぐにでも、ワクチンを送らおく なければなりません。しかし、その時はとても天気が悪くわる もう吹雪ふぶき続きつづ 飛行機ひこうき飛ばすと  ことができません。自動車じどうしゃでさえ走れないようなひどいあらしです。ワクチンをラクチンに運べるはこ  ような状況じょうきょうではありませんでした。
 「そうだ。犬ぞりで運ぼはこ う。」政府せいふは、そう決断けつだんしました。そして、すぐさま村々に連絡れんらくが行きました。ただちに二十の犬ぞりチームが、ワクチンを届けるとど  ために準備じゅんびをしました。
 外は、マイナス五十にもなる厳しいきび  さむさと、荒れ狂うあ くる 吹雪ふぶき
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す。この中を、二十の犬ぞりチームは五日間かけて走り通し、ワクチンは無事ぶじにノームに届けとど られたのです。このおかげで、数百人のいのち救わすく れました。
 このときの働きはたら をたたえて、ハスキー犬の銅像どうぞうが、ニューヨークのセントラル・パークに立てられています。また、この出来事できごと記念きねんして、毎年、世界せかいでいちばん難しくむずか  いちばん長い犬ぞりレースがアラスカで行われるようになりました。このレースは、アンカレッジからノームまでを人間一人と犬たち十数ひきで走るレースです。ふつう、ゴールするのに三週間くらいかかるそうです。
 犬たちのがんばりも相当そうとうなものですが、人間の根性こんじょうもたいしたものです。こんなに大変たいへんなレースの後では、犬たちに号令ごうれいをかけ続けつづ た人間の声もしわがれて、きっと「ハスキー・ボイス」になってしまうことでしょう。
 寒いさむ 地方で使わつか れる犬ぞりのほかに、日本にもさまざまなそりがあります。有名ゆうめいなところでは、エビぞり、ひげそり、のっそり、ごっそり、もっそり、こっそり、ひっそり、げっそり、などです。

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