ハラは、単なるムラを取り囲む、漠然とした自然環境のひろがり、あるいはムラに居住する縄文人が目にする単なる景観ではない。定住的なムラ生活の日常的な行動圏、生活圏として自ずから限定された空間である。世界各地の自然民族の事例によれば、半径約五〜一〇キロメートルの面積という見当である。ムラの定住生活以前の六〇〇万年以上の長きにわたる遊動的生活の広範な行動圏と比べれば、ごく狭く限定され、固定的である。いわばムラを出て、日帰りか、長びいてもせいぜい一、二泊でイエに帰ることができる程度ということになる。
つまり、ハラはムラの周囲の、限定的な狭い空間で、しかも固定的であるが故に、ムラの住人との関係はより強く定着する。
ハラこそは、活動エネルギー源としての食料庫であり、必要とする道具のさまざまな資材庫である。狭く限定されたハラの資源を効果的に使用するために、工夫を凝らし、知恵を働かせながら関係を深めてゆく。こうして多種多様な食料資源の開発を推進する「縄文姿勢」を可能として、食料事情を安定に導いた。幾度ともなく、ハラの中を動き回りながら、石鏃や石斧などの石器作り用の石材を発見したり、弓矢や石斧の柄や木製容器用の、より適当な樹種を選び出したりして、大いに効果を促進した。
縄文人による、ハラが内包する自然資源の開発は、生態学的な調和を崩すことなく、あくまで共存共栄の趣旨に沿うものであった。食物の味わい一つとっても、我々現代人と同様に好き嫌いがあったに相違ないのに、多種多様な利用を旨としたのは、グルメの舌が命ずる少数の種類に集中して枯渇を招く事態を回避する戦略に適うものであった。これは高邁な自然保護的思想に基づく思いやりというのではない。好みの食物を絶滅に追い込むことなく連鎖によって次々と他の種類に波及して、やがて食料だけでなく、ひいては自然を危うくするという事態を避けることにつながる。多種多様な利
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