a 読解マラソン集 1番 ジュースを飲んだら na3
 ジュースを飲んだら空き缶あ かんが残りますね。それをポイとゴミ箱に捨てるす  。その先、そのゴミがどこでどのように処分しょぶんされているのかを知らなくても、わたしたちが学校で、家で、街で出したゴミはだれかがどこかに持っていってくれています。
 だからいままで、みんな知らん顔をしてすんでいました。少なくとも、自分たちの生活している範囲はんいには、ゴミはあふれていない。ゴミが「見えなく」なっているのです。ところがいま、ゴミの行き先がパンクしつつあります。もう無関心ではいられなくなった。ものがあふれる、現代げんだい使い捨てつか す 時代では、ものとおなじだけゴミもあふれているのです。ゴミが増えふ たから、ゴミ焼却炉しょうきゃくろを新しくつくったり、新しいゴミ埋立うめたてて地を増やすふ  という、まるでいたちごっこが、日本中で繰り広げく ひろ られています。しかし、それには必ず限界げんかいがあるのです。
 じゃあ、ゴミ問題を解決かいけつする手立てはあるのだろうか。わたしたちは何をすればいいのだろうか。ゴミ問題の根本的な解決かいけつさくを考える前に、まずなぜこんなにゴミが増えふ てしまったのだろうか。そんなところから、考えることをはじめてみたいと思います。
 わたしたちは、一週間に何回かビニールのふくろに入ったゴミを出します。ゴミ収集しゅうしゅう所にゴミを持っていくとわかるのですが、普通ふつうの家から持ち出されるゴミがびっくりするほど多いんです。ビニールぶくろ一杯いっぱい入ったものがいくつもいくつも積み上げられている。いったい何がその中に入っているのか。とにかく大変なかさだし、重さでしょう。ゴミは、生活すれば当然出るものだといえば出るものです。しかし、あんなにたくさん出さなければ本当は生きていけないのでしょうか。いまのわたしたちの暮らしく  があたりまえだと思えば、たくさんのゴミが出るのもあたりまえなんですが、ちょっと振り返っふ かえ てみると、戦時中、あるいは戦後しばらくはこんなにゴミの量は多くなかったんです。

槌田劭つちだたかしへん「地球をこわさない生き方の本」)
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a 読解マラソン集 2番 つゆのまだ晴れきらない na3
 つゆのまだ晴れきらない、どんよりした日の午後のことでした。次郎じろうは、その日、村の子どもたち五、六人といっしょに学校から帰ってきていましたが、村の入り口に近い農家の前までくると、その庭先に、顔なじみの牛肉屋さんが、ちょうど荷をおろそうとしているところでした。この村に牛肉屋さんがやってくるのはめずらしいことで、せいぜい月に一度ぐらいでしたが、その顔は、きまっていましたし、子どもたちにとっては、それがめずらしいだけに、かえってわすれられない顔だったのです。
 子どもたちは、とびつくように、すぐそのまわりを取りかこみました。そして、赤黒い、あぶらけのない肉が、出刃でばの動きにつれて、つぎつぎにきざまれていくのを、息をつめて見ているのでした。むし暑い空気の中に、なまぐさい、いやなにおいがただよってきましたが、そんなにおいまでが、みんなの鼻には、めずらしい香料こうりょうのにおいででもあるかのように流れこんでいるのでした。
 次郎じろうは、しかし、もうそんなことには、たいして心をひかれませんでした。かれは、ほんのちょっとだけ、みんなのうしろから、それをのぞいただけでした。が、のぞいたとたん、ふと、かれの頭に浮かんう  できたことがありました。それは、病気のかあさんが毎日飲んでいるスープのことでした。
「かしわ(鶏肉けいにく)のスープには、もうあきあきしましたわ。」
「そう? でも、がまんして飲まないと、せいがつかないよ。」
「やっぱり、かしわのスープでないと、いけませんかしら。同じスープでも、変わったものだと、よさそうに思いますけど。」
「そうねえ、それは牛肉だっていいだろうともさ。こんど肉屋さんがきたら、一度、牛肉でこさえてみようかね。」
 かれは、肉屋さんのまないたの上にきざまれていく肉の切れに、もう一度目をやりながら、頭の中で、自分のつくえの引き出しにしまってある、おこづかいのたかを勘定かんじょうしてみました。それは五十せんぐらいあるはずでした。かれは、それを思いあたると、きゅうにむねがわくわくしてきました。そして、上気したように顔をほてらせ、みんなの顔を見まわしたあと、やにわに家のほうにむかって走りだしました。

(下村湖人「次郎じろう物語」)
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a 読解マラソン集 3番 人間にとって一生のうちで na3
 人間にとって一生のうちで、いちばん大事な時期はいつごろでしょうか。これは愚問ぐもんかもしれません。人生のなかで大事でない日などというのは、一日たりとてないからです。けれど、いちばん幸福な日々はいつかと問われたなら、わたし確信かくしんをもって、少年時代、と答えます。むろん、何をもって幸福と言うか、その考え方はさまざまでしょう。しかし、わたし自身、自分の五十年にわたる歳月さいげつをふりかえってみて、ちゅうちょなくそう断言だんげんできるように思います。
 と言っても、その少年時代にわたしは自分が幸福であるなどとは少しも思いませんでした。おそらく、だれでもそうでしょう。少年のころ、あるいは少女のころは、自分が幸福などと思わないくらい幸福なのです。たとえ、どれほど苦しい環境かんきょうにあっても、です。
 なぜなのだろう、とわたしはときどき考えます。端的たんてきに言えば、何につけても夢中むちゅうになることができるからではないでしょうか。
 そんなことはない、大人になってからでも夢中むちゅうになれる、と言うかもしれません。たしかに夢中むちゅうになれるでしょう。けれど、その夢中むちゅうになるなり方がちがうのです。少年のころは、まったくわれをわすれて没頭ぼっとうできる。純粋じゅんすい夢中むちゅうになれる。しかし、大人になると、たとえ何かにどれほど夢中むちゅうになっても、かならずほかのことへの配慮はいりょが働いています。ほかのことが気になりつつ、あることに熱中しているにすぎません。

(森本哲郎てつろう「ことばへの旅」)
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a 読解マラソン集 4番 いったい、ジャングルの破壊は na3
 いったい、ジャングルの破壊はかいは何が原因げんいんなのでしょうか。
 こうした地球的規模きぼの問題には、次にあげるふたつの大きな、根本的な原因げんいんがあると思います。ひとつは、ジャングルがある国はいずれも発展はってん途上とじょう国であり、貧しいまず  こと。もうひとつは、先進国のむだの多いライフスタイル(暮らしく  方)です。
 まず発展はってん途上とじょう国の場合は、人口増加ぞうかにともなって、ジャングルを大規模きぼに切り開いて農地にしたり、都市の人々を移住いじゅうさせたりしています。またたきぎ木の消費量が多くなり、森がどんどんへっているため、女性じょせいは何時間もかけて遠くの森までたきぎ木を拾いに行かなくてはならないような状況じょうきょうも生じています。たきぎ木が手にはいりにくくなったからといって、燃料ねんりょうをガスや電気にかえることもできません。こうした結果が、ジャングルの破壊はかいにつながっているケースもあります。
 また発展はってん途上とじょう国にとっては、ジャングルの木々が重要な資金しきんげんでもあります。ジャングルは自然がつくったものですから、新たに何かをつくり出す必要がなく、切って輸出ゆしゅつすればお金になります。マレーシア、インドネシア、フィリピンなど、ジャングルの破壊はかいが大きな問題になっている国では、いずれも木材の輸出ゆしゅつが国の経済けいざいの柱となっています。
 しかし発展はってん途上とじょう国の経済けいざい支えるささ  熱帯の木材も、価格かかくは今、戦後最低です。結局、今の世界全体の経済けいざい構造こうぞうそのものが、豊かゆた な先進国が動かしているような感じですから、いつも買いたたかれてしまうんです。安いから、いくら切って売っても、たいしてお金にはならなくなってしまっています。
 ただでさえ苦しい国の経済けいざい状況じょうきょうに加えて、外国からの借金も返さなくてはなりません。そのためには、ジャングルを伐採ばっさいするのもいたしかたない、伐採ばっさいをやめるわけにはいかないという事情じじょうがあるのです。
 そのいっぽう、豊かゆた な先進国では使い捨てつか す のものがふえるなど、
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むだの多い暮らしく  方が広まっています。これも、ジャングルを減少げんしょうさせているのです。
 たとえば、ファストフードの代表かくであるハンバーガー。とくに欧米おうべいのハンバーガーをつくるための安い牛肉は、中南米産がほとんどです。中南米のジャングルは、この肉牛用の大規模きぼな牧場建設けんせつのために、半分以上がなくなってしまったのです。
 豊かゆた な先進国では、ハンバーガーを食べなくても、他に栄養げんはいくらでもあります。木材にしても、なにも熱帯の木でなくてもかまわないでしょう。つまり、先進国の人々には選択せんたく余地よちがいくらでもあり、その暮らしく  方を少し変えさえすれば、ジャングルの減少げんしょう破壊はかいをくいとめられます。
 焼畑農業にしてもそうですが、これまでジャングルの伐採ばっさいに関する主だった研究は、先進国の人間によって行われてきました。出版しゅっぱんされた本も、先進国の立場から見たものが多かったのです。
 過去かこにこんな例がありました。先進国によってジャングルに木を植えるという試みが行われたのですが、木は育ったものの、ジャングルに住む人々にとっては、ちっとも役に立たなかったのです。
 植えられた木はやせ地でも、比較的ひかくてき育ちやすく、生長の早いユーカリやアカシアなどでした。これらの木は、二年もたてば五メートルくらいになるのです。ところが早く、大きく育つのは結構けっこうなのですが、これらの木が他の木に必要な養分も全部奪っうば てしまいます。ですからそこは、ユーカリやアカシアだけの森となり、もとのジャングルとはても似つかに  姿すがたになってしまうのです。そんな森には、動物や鳥もすみつかなくなるでしょうし、そうなったら、人々はその森から食べ物はおろか、肥料ひりょう飼料しりょうも得られなくなってしまいます。
 この例からもわかるように、「科学」や「技術ぎじゅつ」、「開発」とはなにか、だれのためのものか、あらためて考え直してみることが必要だと思います。

(生きている森編集へんしゅう委員会へん「未来の森 森があぶない」)
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