流行は時代と共にあぶくのように消えてしまうが、古典には最も人間的な矛盾した感性を、その時代の具体的な素材を用いて抽象の中に表現し得ているものである。 （74字）

　

　古典とは決して「古いもの」という意味ではなく、永遠に新しいものを指す。流行は時代と共にあぶくのように消えてしまうが、古典には最も人間的な矛盾した感性を、その時代の具体的な素材を用いて抽象の中に表現し得ているものである。そして、不思議なことなのだが、非現代的な素材が抽象の骨組際立たせることがある。
　確かに、長い間人々に愛され続けてきたものにはそれなりの理由がある。平凡なものは時間と共に人々の記憶から消えていってしまう。つまり、長い時を経てもなお受け継がれているものにはそれだけの魅力があるということだ。日本には素晴らしき伝統が沢山受け継がれている。例えば、百人一首や俳句はそのうちの1つだろう。もし、今私が17文字の文を考えたら、1秒後には誰の記憶にも残っていないだろう。しかし、松尾芭蕉が｢古池や蛙飛び込む水の音｣と詠むと、何故か古今東西の老若男女に届く。確かに、｢この俳句の良さは分からないけど、松尾芭蕉が有名人でテストに出るから知っているだけ｣という人も少なくないだろう。しかし、この俳句には、受け継がれる何らかの理由が必ずあるはずだ。私はこの俳句の良さは生活のリアリティ、日本人好みの質素さ、頭に残るリズミカルな韻の良さだと思う。少なくとも、長い間愛され続けている理由が存在する。
　一方で、新しいものは特有の魅力で人々の好奇心をそそる。童話｢シンデレラ｣は、継母や姉達に虐められていたところ、留守番の間に魔法使いに出会い、舞踏会に行くお話だ。最終的にシンデレラは王子様に気に入られ、紆余曲折の後、結婚する。しかし、シンデレラが幸せを手に入れたのも、舞踏会に行ったからである。少し強引ではあるが、舞踏会という世界がシンデレラにとって新しくなければ魅力は無かった訳だ。つまり、新しい世界の魅力がシンデレラと王子様のキューピットだと言っても過言ではないだろう。また、それは童話の中だけの話ではない。私たちの日常生活の中でもそうだ。万物が、時代と共に移り変わっている。
　このように、古いものにも新しいものにも、それなりの良さだったり存在意義だったりするものがある。どちらもニーズに合ったものだし、他人の言う良いものが自分にとって良いとは限らない。｢自分の心のうちに持っていないものは何一つ自分の財産ではない｣という名言があるように、他人の評価基準に頼ってはいけない。自分の好みを知り尽くしているのは、広い世界にただ一人、私だけではないだろうか。私は、自分の心に響いたものを探索し、私の基準で発見していきたい。