今までで一番印象に残っている思い出は、祖父と大阪の『中百舌鳥駅』へ出かけた時に、 「中百舌鳥の『百舌鳥』は、漢字が三つあるのに、読んだら二文字しかないんだよ」 という豆知識を教わったこと、そして描いた絵を天才だと言って褒めて貰ったことだ。 （120字）

　

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不安だった。だから涙が溢れた時、私は自分にも、人の心があるのだと、安心した。
　自分の部屋に戻った後、今年の冬休みに自分のとった行動の数々を思い出して、心から安堵した。悔いのないように、祖父と接せてよかった。
　マッサージをして、ラインの設定をしてあげて、祖父が出した問題を解いて褒められたり、医者の心得を聞いたり。いつも以上に、沢山話すことができた。だからか、
「ああすれば良かった」
　と後悔することはなかった。
　だから私はただ、思い出に浸った。
　祖父は非常に物静かな人で、言葉数は少なく、また一緒にどこかへ遊びに行った思い出も少ない。だから祖父に可愛がられ、いつもどこかへ遊びに行って貰っていた従妹がいつも羨ましかった。
　今までで一番印象に残っている思い出は、祖父と大阪の『中百舌鳥駅』へ出かけた時に、
「中百舌鳥の『百舌鳥』は、漢字が三つあるのに、読んだら二文字しかないんだよ」
　という豆知識を教わったこと、そして描いた絵を天才だと言って褒めて貰ったことだ。

　本当はもっと祖父の死を悼みたかったが、翌日には学校があったため、そんな余裕はなかった。翌朝にはいつも通り、学校へ行き、授業を受けた。
　そして人が一人亡くなっても、人間というのは案外平気なものなのだと、驚いた。突然ヒステリックに泣き出す訳でも、叫ぶ訳でもない。ただ、ふとした瞬間に、もうその人と言葉を交わすことが出来ないという事実を思い出すのだ。
　お昼休みにご飯を噛んでいる時や、友人と話している時。日常のワンシーンのちょっとした隙間に、私は冬休み最後の日に、バス停まで送り届けてくれた祖父と、二回握手した時の、あのひんやりとした手の温もりや、あの力強い手を思い出すのだ。そして空港へと向かうパスの中から見えた、祖父の健康を祈りながら見つめた、あの綺麗な三日月の輝きも。
　いつか、祖父の声も、顔も、匂いも、いびきも、語り始める時の独特な息の吸い方も、交わした言葉たちも、思い出も、忘れ去ってしまう日が来るのだろう。だけど、すべて覚えていたと思う、わがままな私がいる。そして生きていて欲しかったと、願う私がいる。
　だが、生物というのは、一部例外はあるにしろ、いつか死ぬものなのだ。心臓が止まり、脳機能が完全に停止し、五感はなくなり、ただの肉の体になる。そして私はキリスト教を信仰しているため、当然、死者の魂は天国へと引き上げられると信じている。私にとって、人が死ぬか否かは、神が全て決めることなのだ。だから、今回の祖父の死は、やはり神の御心であり、私が願っていても仕方がない。
　今はただ、祖父が天国で曾祖父母や祖父の兄弟たちと幸せでいることを祈っている。