大正に誕生した木造の芝居小屋である内子座は昭和４０年代、取り壊して駐車場にする案が浮上したが、住民らによる保存運動を経て残すことが決まった。 （70字）

　

　天然ヒノキを高く売る方法を専門家に尋ねたある村の村長は、玄関の表札にするのが一番良いと言われ、不愉快になった。つまり、その木を高値で売却することが、木の本来の価値を生かすことと一致していないため、不服だったのだ。やはり私達も村長のように、お金に換算できない価値を重んじるべきである。その理由を二つ述べたい。
　第一の理由は、経済第一主義では美しさを見落とすためだ。ここで愛媛県内子町の内子座の例を紹介しよう。大正に誕生した木造の芝居小屋である内子座は昭和４０年代、取り壊して駐車場にする案が浮上したが、住民らによる保存運動を経て残すことが決まった。
　要するに住民は、駐車場経営で稼ぐ短期的な利益よりも、美しい内子座を残すことを選んだのだ。江戸時代から明治にかけて木蝋生産で栄えた商人の町が生んだかつての一大娯楽施設が内子座である。現在この建物は、町の歴史を物語る内子町の顔として全国的に知られるまでに成長した。
　第二の理由は、経済性ばかりを追い求めると無理な搾取を他者に求めてしまうためだ。ここでは人口が東京に一極集中する例を挙げてみる。総務省の２０１８年住民基本台帳人口移動報告で、東京圏１都３県への転入超過が２３年連続となったことが分かった。
　この東京一極集中のために、政府機関や民間企業の本社、大学が東京圏に集まる状態が続く。一方、人口が減る地方では仕事の担い手を確保できず耕作放棄地が増えたり、商業施設のシャッター街化が進んだりしている。まさに東京圏の経済的繁栄のために地方の人口が搾り取られる構造ができあがっているのだ。
　確かにモノの価値をお金に換算して考えると分かりやすい。しかしロックバンドsyrup16gはこう歌った。

ひとつ残らず計算で
割り切れないものばかり　
確かなことは少しだけ
この胸にある思いだけ　　　　　　　　　　　　　　　『I’m not by youから引用』。

結局、お金で捉えられない価値が世の中には遍く存在している。その多様な価値観を無理やりお金に換算する必要はない。むしろ私たちは、価値観の多様性を守り育むことを通じて、グロテスクなお金至上主義が蔓延る世の中を変えられるはずである。