総合 34 点(上位1%以内)

字数 1182 字 【文体】
 ○文の流れが自然です。
 ○文章の中心がよくしぼられています。
【語彙バランス】
 説明に比べて、素材がやや多い文章です。(-27点)
 概念的な言葉よりも、描写的な言葉がやや多い文章です。(-27点)
思考力 44 点
知識力 57 点
表現力 88 点
規定の字数(1200字)よりも短い文章は低めに評価されます。小論文として採点しているため語彙間のバランスも評価に入れています。

 【本文】


「かわむら」

ソファの角で小さく丸まっている影に声を掛けた。日がな一日パソコンに向かい、何一言も発さず、ろくに物も食べなかったそれは、ついにパソコンに向かうことをやめたのだ。

鈍る光が住宅街の隙間でくすぶって、わずかにその横顔を照らしている。ゆるやかに呼吸をしていた。

「河村、コーヒー淹れたからおいでよ」

部屋の中にはカップから立ち昇るバニラの香りが微かに漂う。縁のある先輩から貰ったバニラフレーバーのコーヒーを珍しくドリップした。ブラックを好む河村は存外、この甘い香りを気に入っているようだった。

テーブルの向かい声掛けると、ゆるく伸びた髪がわずかに動いた。外出の自粛を呼び掛けられたこの期間に河村のそれはずいぶんと伸びた。弧を描いて垂れるさまは、よく似合うと同時に、神経質な性分を際立たせているようにも思えるものだった。

目元にかかる髪を梳いてやると薄く閉じられた瞼が力なく瞬いた。うつろを抱えた眼球はこちらに像を結ぼうとして、そして、諦めたようにまた伏せられる。

「今日はちょっといいの淹れたよ」

この世の中に常に称賛される者などいない。それに手を伸ばしてすべてを分解しようとする性分は河村を孤独にしていくばかりだ。形を成して生まれたものを受け入れられないということは、どれだけの憂節を抱えてきたのだろう。そう思って寄り添い、馳せたところで肩代わりできるものでもなく、傍らで見守るだけが俺の常だった。

河村がこうなるのは今に始まったことではない。

距離を詰めていくたびに、これの作り出すものは鬼気迫るほどの思考の果てで、その精神を抉り取って生み出されているのを目の当たりにしてきた。

「僕は、」

ようやく空気と共に押し出された、福良、という呼び掛けのあと、一呼吸置いて河村が続けた。普段が嘘のように寄るべのない声だった。

「もうお前のそばにいたくない」

柔らかい髪が揺れる。

率直に、傷つくことを言うものだな、と思った。こちらは今更何があって、ここを離れることができようか、という心積りでいるにも関わらず。河村を苛むものは俺からさえ、河村を逃げ出させようとするのだ。

「俺が勝手にいるからいいよ」

ほら、コーヒー飲もう、と声を掛け、折り重なった脇に腕を入れて抱き寄せる。その背骨は以前より少し、主張を潜めているのが指先から伝わった。河村の口から漏れた空気の押し出される音と共に、声にならない音が鼓膜を打つ。

辞めたいなら辞めればいい、投げ出したいなら投げ出せばいい。愛して止まないものが不出になるのは痛恨の極みだが、河村がその形を失うよりは余程良い。

「…お前は本当にひどい奴だよ」
「なんとでも言って」

頼りない身体を抱く腕に力をこめる。いつもより




「俺ね、河村のこと好きなんだよ」

これは呪詛だ。