「森に七色の川が流れていることをご存知かしら。ねぇ、キリンさん？」
すこし高めの女の声が私の耳元で響く。少なくとも、私の名前はキリンではない。ねぇねぇ、と背中から呼び掛けられるうちに、それが私のことであると気づいた。
森、といわれてもこの学園の近くに森などというものはないし、七色の川など見たこともない。あるとすればおとぎ話のうちだ。
何かしらのドラッグでもやっているのではないか、と少々彼女の事が心配になる。だが心配、の他に抱く感情はない。何故なら他人だからだ。興味もないので無言でその場を立ち去った。
女は狂ったようにその場で「キリン」にむかって「森に七色の川が流れていることを」知っているかと聞いている。