拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
これまで、作文教室の自習として「付箋読書」「10分間長文暗唱」を行ってまいりました。
これを9月から更に力を入れて取り組んで参りたいと思います。
下記の内容をごらんいただき、ご協力くださいますようお願い申し上げます。 敬具
記
自習の内容は、
(1)毎週1冊の付箋読書(かかる時間は1冊10?20分。時間をかけて普通に読んでもかまいません)
(2)毎週300字の長文暗唱(かかる時間は毎日10分程度)
で、やっていただくことはこれまでと変わりません。
ただし、暗唱については1ヶ月で900字を通して暗唱できるようにします。
■自習用紙を使った900字暗唱の仕方(9.2週に説明予定)
900字の暗唱といっても記憶術を使う方法ですので、これまで1週間で300字の暗唱ができていた子はそのまま1ヶ月で900字の暗唱もできるようになります。
ただし、暗唱の仕方を徹底した方がやりやすいので、生徒には自習用紙を使った暗唱の方法を説明します。できるだけこのやり方で続けていってください。
自習に関する保護者の方の対応で大事なことは二つあります。
1、毎日決まった時間帯を確保すること
・朝ご飯の前、夕ご飯の前など、必ずできる時間帯を決めてください。
・日曜や祝日も同じように続けるのが基本です。
・事情によって10分間できないときも、回数を減らしてやっていってください。
2、読み方について注意をしたりからかったりせず必ず褒めてあげること
・子供部屋などでなく、家族のいるとこころで暗唱させるようにしてください。
・読み方が下手だったり間違えていたりしても、注意をしたりからかったりしないようにしてください。
・読み終えたあとは、いつも「上手に読めたね」と褒めてあげてください。
【自習用紙】
■暗唱チェックと記憶術(9.3週に説明予定)
教室での暗唱チェックの仕方は、これまで先生が生徒の暗唱を全部聞く形で行っていました。
しかし、これでは900字暗唱になると時間がかかるので、これからは、「○番目の文を読んでみて」という形で、先生が暗唱する文を指定します。
したがって、記憶術を参考にして、文の順番も覚えてくるようにしてください。
【記憶術】
50字の暗唱は、すぐにできます。100字の暗唱は、十数回でできます。早い人は数回できるでしょう。時間としては大体5分から10分です。
300字になると、暗唱は急に難しくなります。しかし、それでも、2、30回で覚えられます。
ところが900字になると、暗唱はさらに難しくなってきます。これも、本当は回数を反復して暗唱できるようにしたほうがいいのですが、あまり壁が高いと挫折してしまう人も多くなります。
音読や暗唱の大切さは、シュリーマン、本多静六、湯川秀樹などの例を挙げて、多くの人によって紹介されています。しかし、ほとんどの人が実践できないのは、長い文章になると急に難しくなってくるためです。
そこで、長文の暗唱に、記憶術を併用して覚える方法を提案することにしました。
900字の暗唱でいちばん難しいのは、文の出だしです。先生が生徒の暗唱チェックをするときも、出だしの一、二語を言えば、すぐに続きが出てくる子が多くいます。そこで出だしの一語を記憶術で覚えるようにしてみます。
まず
第一に、身近なもの、例えば自分の身体などを使って順番を決めます。そのほかに、家の中の部屋、家から学校までの道筋なども使えます。
1、頭のてっぺん | 2、おでこ | 3、左目 | 4、右目 |
5、鼻 | 6、左耳 | 7、右耳 | 8、口 |
9、のど | 10、左肩 | 11、左ひじ | 12、左手 |
13、右肩 | 14、右ひじ | 15、右手 | 16、左胸 |
17、右胸 | 18、おへそ | 19、左のおしり | 20、左ひざ |
21、左足 | 22、右のおしり | 23、右ひざ | 24、右足 |
などと順番をつけていきます。
900字の暗唱であれば右手ぐらいまでに終わるものがほとんどです。
第二に、出だしの言葉を、最初に思いついた連想でイメージ化します。あれこれ考えずに最初の思いつきを生かすことが大事です。
第三に、順番をつけた身体の部分に、そのイメージをできるだけオーバーに結びつけます。長い文のときは出だしの言葉のイメージと次のキーワードのイメージを結びつけてもいいでしょう。
なお、900字の暗唱が終わり、新しい900字の長文を覚えるときは、古いイメージは外しておきます。その方が混乱しません。
実例を元に説明してみましょう。
次の文章を覚えるとします。長くなるので最初の300字だけにしますが、同じ要領で900字まで覚えられます。
====覚えようとする長文の例(ここから)====
現代文明が、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料に依存し、化石燃料を利用して成り立っているのに対して、江戸文化は、太陽エネルギーだけを使って成り立っていた。
具体的にいうなら、徹底的に植物に依存し、植物を利用した時代だった。
もちろん、植物以外の資源を利用する漁業や、鉱物を加工して金属や陶磁器を作る産業も発達したが、中心になるのはさまざまな形での植物の利用だった。
植物を育てる重要な作業にも、人力とわずかな家畜の力しか使わなかったが、考えてみると、人間は去年の太陽で育った穀物などを食べて動いているし、馬や牛も去年か今年の太陽で育った穀物やわら、草などで生きているから、結局は、産業も過去一、二年の太陽エネルギーだけを利用して成り立っていたことになる。
今のように石油で暖めるハウス栽培をすれば、真冬でも胡瓜やトマトを出荷できるし、大きな船で遠洋漁業に出れば、日本では獲(と)れない魚を獲(と)って来ることもできる。
ところが、太陽エネルギーだけを利用して植物栽培や漁業をやっていた当時は、それぞれの土地柄に合った作物を育て、季節の海産物を利用するほかなかった。
====(ここまで)====
六つの文のそれぞれの出だしの言葉は、「現代文明が」「具体的に」「もちろん」「植物を」「今のように」「ところが」です。
これらの言葉を最初の思いつきでイメージ化し、そのイメージをできるだけオーバーに、リアルに、感覚的に、実感をこめて身体に結びつけます。
「現代文明が」→げ……→ゲンゴロウ→ゲンゴロウが頭のてっぺんをかじっている。「ガリガリ」。
「具体的に」→ぐ……ラーメンの具のシナチク→シナチクがおでこにペタリとくっついた。「あちちち」。
「もちろん」→もち……→おもち→おもちが左目にくっついた。「わあ、とれない」。
「植物を」→植物……→そのまま植物で→ベランダにあるゼラニウムの植木鉢が右目にぶつかって、葉っぱが目に入った。「いたたた」。
「今のように」→いま……→今川焼き→今川焼きが鼻の穴にささって、あんこがぐにゅっと出てきた。「ふがふが」。
「ところが」→ところ……→トコロテン→トコロテンが左耳につるりと入ってきた。なんだか冷たくて気持ち悪い。
このようにイメージを使って感覚的に覚えた記憶は、忘れようとしても簡単に忘れられません。
そこで、新しい記憶を開始するときは、前の記憶を一つずつ外していきます。
「頭のてっぺんのゲンゴロウが飛んでいった。やれやれ」「おでこのシナチクを取った。ああ、よかった」「左目のおもちも取った。これで安心」などというように、外すときもイメージを使っていきます。
いったんこのやり方を覚えれば、勉強にも生活にも、いろいろなところに応用できます。