長文 3.1週
1.規格はずれ

2. 【1】君は電機メーカーの工場の流れ作業をみたことがあるかい。
3. ベルトの上に部分品がのっかってはこばれてくる。ベルトのまえにすわっている人が、そこから部分品をとって、組み立てている電気器具にはめこんでいく。
4. 【2】部分品は、寸法がきちっと統一されていて、組み立てている器具の、きめられた部分にぴったりあう。
5. こういうふうに、部分品の規格が統一されているので、大量生産ができるのだ。
6. 【3】君の学校にも、いろいろ規則があるだろう。学校のどこそこの場所には勝手に立ち入ってはいけないとか、服装は、こういうのに違反いはんしてはならないとか、いろんなきまりがあるだろう。
7. 【4】何百人もの生徒を、毎年、きまった日に卒業させようと思うと、そういう規格の統一が必要になるのだ。
8. しかし、それは、学校という限られた場所で、何百人もの卒業生を、きまった年限でつくりだす必要上できている約束だ。
9. 【5】人間は鋼鉄製の部分品でないから、そうきちっと寸法がきまらない。あっちがとびだしたり、こっちがへこんだりする。
10. じっさい社会にでてから役に立つのは、その人間に特有なとびだしたところだの、へこんだところなのである。
11. 【6】学校を卒業して社会にでてくる人間が、どれもこれも、寸法がおなじ規格品だったら、社会はぜんぜんおもしろくなくなる。
12. テレビのコマーシャルでもいろいろちがうからおもしろいんで、あれがすべて、君のんでますか、君つかってますか、と商品をつきだされるんだったら、やりきれない。
13. 【7】それだから、君が学校できめられた規格にあわないところがあっても、気にしないことだ。
14. 学校の図書室に大人物の伝記があるだろう。読んでみたまえ、みんな規格はずれだ。
15. 【8】だが、伝記をかく人間は、中学の図書室にならべてもらいたいので、規格はずれではあるが、いまの学校の規格にあうようなところに力をいれてかいている。
16. 【9】だから、どうも自分は規格はずれだと思っているんだったら、学校の図書室にない、かわった人物の伝記も読んでみるんだな。
17. 規格からはずれるのは、人間としてのエネルギーのあふれている人におおい。【0】

18.『人生ってなんだろ』(松田道雄みちお)より