ベニバナ2 の山 3 月 1 週 (5)
★(感)規格はずれ   池新  
規格はずれ

 【1】君は電機メーカーの工場の流れ作業をみたことがあるかい。
 ベルトの上に部分品がのっかってはこばれてくる。ベルトのまえにすわっている人が、そこから部分品をとって、組み立てている電気器具にはめこんでいく。
 【2】部分品は、寸法がきちっと統一されていて、組み立てている器具の、きめられた部分にぴったりあう。
 こういうふうに、部分品の規格が統一されているので、大量生産ができるのだ。
 【3】君の学校にも、いろいろ規則があるだろう。学校のどこそこの場所には勝手に立ち入ってはいけないとか、服装は、こういうのに違反してはならないとか、いろんなきまりがあるだろう。
 【4】何百人もの生徒を、毎年、きまった日に卒業させようと思うと、そういう規格の統一が必要になるのだ。
 しかし、それは、学校という限られた場所で、何百人もの卒業生を、きまった年限でつくりだす必要上できている約束だ。
 【5】人間は鋼鉄製の部分品でないから、そうきちっと寸法がきまらない。あっちがとびだしたり、こっちがへこんだりする。
 じっさい社会にでてから役に立つのは、その人間に特有なとびだしたところだの、へこんだところなのである。
 【6】学校を卒業して社会にでてくる人間が、どれもこれも、寸法がおなじ規格品だったら、社会はぜんぜんおもしろくなくなる。
 テレビのコマーシャルでもいろいろちがうからおもしろいんで、あれがすべて、君のんでますか、君つかってますか、と商品をつきだされるんだったら、やりきれない。
 【7】それだから、君が学校できめられた規格にあわないところがあっても、気にしないことだ。
 学校の図書室に大人物の伝記があるだろう。読んでみたまえ、みんな規格はずれだ。
 【8】だが、伝記をかく人間は、中学の図書室にならべてもらいたいので、規格はずれではあるが、いまの学校の規格にあうようなところに力をいれてかいている。
 【9】だから、どうも自分は規格はずれだと思っているんだったら、学校の図書室にない、かわった人物の伝記も読んでみるんだな。
 規格からはずれるのは、人間としてのエネルギーのあふれている人におおい。【0】

『人生ってなんだろ』(松田道雄)より