1.内村
鑑三のこと
2. 【1】君は内村
鑑三という人を知っているかい。
3.「少年よ、大志をいだけ」
4. といったクラーク先生の
開拓精神を校風とする
札幌農学校(今の北大の前身)の第二回卒業生だ。【2】のちアメリカにわたって、キリスト教を勉強し、日本にかえり、どの教会にもぞくしないキリスト教をひろめた。学者でもあり、文学者でもあった。
5. 【3】アメリカでは、精
薄施設の看護人もしたくらいで、生活は楽でなかった。
6. あるとき、いよいよ金にこまって、以前に、こまったときは来なさいといってくれた米人のことを思いだし、雪の降る夜、ぬかるみに足をとられながら、たずねていった。
7. 【4】その家のまえまできて、その人のいる
書斎の窓の灯をみつめて、
彼はかんがえた。
8. 待てよ、もし、ここで金をめぐんでもらったら、日本へかえってキリスト教をひろめるとき、
9.「あの福音には金のにおいがするぞ」
10. といわれるだろう。
11. 【5】
信仰を生活のたよりにしてはならない。そう思った
彼は、むしろ
飢えをがまんしたほうがいいと、きびすをめぐらして、雪の道をひきかえした。
12.
彼の
選択は正しかった。【6】日本にかえってから、
彼の人間としての清潔さが、おおくの人の信用をえて、たくさんの信者が
彼のまわりにあつまった。
13. 日
露戦争のとき、内村
鑑三は平和主義の立場から非戦論をとなえて、戦争に反対した。【7】反戦牧師だったわけだ。そのころ、国民のほとんどが軍国主義者だったから、戦争に反対するのは、たいへんなことだった。けれども
彼は平和主義をまもりとおした。
14. 【8】自分の信念をまもろうとしたら、かんたんに人から
援助をうけてはいけない。
15. 人間が人間を信じるのは、そのいっていることが本心からでているときだけだ。∵
16. 【9】どんなに、りっぱなことをいっても、どんなにえらそうな口をきいても、それが本人の心の底からの声でなく、他人から金をもらったり、いい役につけてもらったりしているからだったら、信用してもらえない。世間から提灯持ちだとか、「男めかけ」だとか、いわれるだろう。
17. 人間は、自主独立ということが、いちばん大切だ。【0】
18.『人生ってなんだろ』(松田
道雄)より