長文集  2月2週  ★(感)内村鑑三のこと  yube2-02-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
内村鑑三のこと

 【1】君は内村鑑三という人を知っている
かい。
「少年よ、大志をいだけ」
 といったクラーク先生の開拓精神を校風と
する札幌農学校(今の北大の前身)の第二回
卒業生だ。【2】のちアメリカにわたって、
キリスト教を勉強し、日本にかえり、どの教
会にもぞくしないキリスト教をひろめた。学
者でもあり、文学者でもあった。
 【3】アメリカでは、精薄(はく)施設の
看護人もしたくらい で、生活は楽でなかっ
た。
 あるとき、いよいよ金にこまって、以前に
、こまったときは来なさいといってくれた米
人のことを思いだし、雪の降る夜、ぬかるみ
に足をとられながら、たずねていった。
 【4】その家のまえまできて、その人のい
る書斎の窓の灯をみつめて、彼はかんがえた

 待てよ、もし、ここで金をめぐんでもらっ
たら、日本へかえってキリスト教をひろめる
とき、
「あの福音には金のにおいがするぞ」
 といわれるだろう。
 【5】信仰を生活のたよりにしてはならな
い。そう思った彼は、むしろ飢えをがまんし
たほうがいいと、きびすをめぐらして、雪の
道をひきかえした。
 彼の選択は正しかった。【6】日本にかえ
ってから、彼の人間としての清潔さが、おお
くの人の信用をえて、たくさんの信者が彼の
まわりにあつまった。
 日露戦争のとき、内村鑑三は平和主義の立
場から非戦論をとなえて、戦争に反対した。
【7】反戦牧師だったわけだ。そのころ、国
民のほとんどが軍国主義者だったから、戦争
に反対するのは、たいへんなことだった。け
れども彼は平和主義をまもりとおした。
 【8】自分の信念をまもろうとしたら、か
んたんに人から援助をうけてはいけない。
 人間が人間を信じるのは、そのいっている
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ことが本心からでているときだけだ。∵
 【9】どんなに、りっぱなことをいっても
、どんなにえらそうな口をきいても、それが
本人の心の底からの声でなく、他人から金を
もらったり、いい役につけてもらったりして
いるからだったら、信用してもらえない。世
間から提灯持ちだとか、「男めかけ」だと 
か、いわれるだろう。
 人間は、自主独立ということが、いちばん
大切だ。【0】

『人生ってなんだろ』(松田道雄)より