長文集  9月4週  ○石の魅力は  yabi2-09-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/06/14 19:13:08
 【1】石の魅力は、その美しさだけでない
。その魅力とは、石が伝えてくれるさまざま
なメッセージにある。石は「地下からの手 
紙」といってもいいだろう。【2】地球上に
は約三〇〇〇種の鉱物があり、それぞれの名
前はその化学成分と結晶構造、つまり、どう
いう元素がどのように配列しているかで決ま
る。【3】そして岩石中にどんな鉱物が含ま
れるかは、その岩石がさらされた温度や圧力
などの物理的要因と岩石の成分といった化学
的要因とで決まる。
 【4】たとえばダイヤモンドと石墨という
二つの鉱物がある。ダイヤモンドは地球上で
最も硬く、またその美しさは宝石のなかでも
群を抜いている。一方、石墨は黒色でひじょ
うに脆い鉱物で、鉛筆の芯に使われたりする
。【5】このまったく異なる二つの鉱物、じ
つはどちらも化学成分は同じで、炭素だけか
らなる。それなのに違いが生じるのは、両者
のつくられた環境が違うからである。
 実験室で石墨に高い圧力と温度を加えてや
るとダイヤモンドに変化する。【6】高い圧
力では炭素原子がぎっしりと結合してひじょ
うに硬いダイヤモンドになるのである。逆に
圧力が下がるとダイヤモンドは石墨になる。
このことから少なくとも地下一五〇キロメー
トル程度より深くにしか、ダイヤモンドは存
在し得ないとされる。
 【7】ダイヤモンドはキンバーライトとい
う一種の火山岩中に産する。地上には存在し
得ないダイヤモンドを私たちが目にすること
ができるのは、キンバーライトのマグマが上
昇するとき、地下深くにあったダイヤモンド
を地表まで運んできたからである。【8】そ
のときマグマがゆっくり上昇していたら、ダ
イヤモンドは途中で石墨に変わってしまう。
このことから、その上昇する速度は石墨に変
化する暇がないくらいの猛スピードで、少な
くとも時速一〇〇キロメートル以上と見積も
られている。【9】まさにキンバーライト 
は、ダイヤモンドという「手紙」を、地下か
ら運んできた特急列車なのである。
 では、ダイヤモンドという「手紙」には何
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が書かれているのだろうか。近年、ダイヤモ
ンドのつくられた年代が測定され、多くの興
味深い事実が明らかになってきた。【0】地
球最古の岩石は約三九億年前とされているが
、ある種のダイヤモンドが四五億年前という
とん∵でもなく古い年代を示すのである。地
球の年代は約四六億年であるから、このこと
は地球誕生の当初から地下に炭素が存在して
いて、それがダイヤモンドになったことを示
している。
 地球は太陽系の他の惑星とともに、微惑星
が集合してつくられ た。地球上に降り注ぐ
隕石はその微惑星のなれの果てであり、なか
でも炭素質コンドライトと呼ばれる種類の隕
石は、太陽系のもととなった物質に最も近い
と考えられている。ある種のダイヤモンドを
つくった炭素は、そのような隕石からもたら
されたのである。このように、ダイヤモンド
という一つの鉱物のなかには、じつにたくさ
んの情報が含まれている。あなたの持ってい
るダイヤモンドは、ひょっとしたら太陽系を
つくった物質のかけらなのかもしれないので
ある。
 そんなことを思って鉱物を見たら、多少は
見る目が変わるのではないだろうか。ダイヤ
モンドに限らず、どんな鉱物もそのつくられ
てきた歴史を背負っている。そんな一つ一つ
の鉱物が持つ履歴を積み重ねていくと、その
鉱物を含んだ岩石の歩んだ歴史が浮かび上が
ってくるのである。それを伝えてくれる岩石
や鉱物は「過去からの手紙」である。
 岩石のなかで、鉱物は自らが持つ本来の色
と形をもってして、私たちに多くのことを語
りかけてくれる。そんな「過去からの手紙」
に書かれた文章を読み解くのが、鉱物や岩石
に接する最大の魅力であろう。そしてそれを
伝えてくれるところに、鉱物のほんとうの美
しさがあるのではないだろうか。

(河合雅雄編「ふしぎの博物誌」による)