長文集  8月3週  ★智に働けば角が立つ(感)  yabi2-08-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
【1】「智(ち)に働けば角が立つ。情に樟
(さお)させば流される。意地を通せば窮屈
だ。兎角に人の世は住みにくい」これは夏目
漱石の作品『草枕』の冒頭の一部であるが、
人の世のありさまが見事に説明されている。
【2】知に頼って論理を押し通そうとすれば
確かに角が立つし、感情のおもむくままに動
けば目的地にはなかなか到達しない。どこま
でも自分の考えを通そうとすれば、気づまり
な雰囲気になる。世の中は簡単にはいかない
ものだというのが実感である。
 【3】漱石は、その後で、「人の世を作っ
たものは神でもなければ鬼でもない。矢張り
向う三軒両隣りにちらちらする唯の人であ 
る。唯の人が作った人の世が住みにくいから
とて、越す国はあるまい。あれば人でなしの
国へ行くばかりだ。【4】人でなしの国は人
の世よりも猶住みにくかろう」と言っている
。やはり人の世で住んでいく以外に選択の余
地はないのだ。
 【5】向こう三軒両隣りにいる人たちは、
考え方や行動様式もさまざまである。好感の
持てる人もいれば、できるだけ顔を合わせた
り話をしたりしたくない人もいる。【6】嫌
な人がいるからといって別の場所に越して行
っても、やはり気に触る人の何人かは必ずい
る。どこへ行っても大同小異だ。
 【7】自分が全く抵抗を感じない人たちだ
けに囲まれて生きていこうと考えても不可能
なことは、物心がつく年頃から分かっている
はずである。自分が勝手に生きていきたいか
らといって、全く人と付き合わないで一人で
暮らしていくほどの勇気や強さもない。【8
】そうであれば不平を言ってみても始まらな
い。この世は住みにくいと考えて否定的に生
きていくか、人生は山あり谷ありの変化に富
んだ面白いものだと考えていくかによって、
局面は大きく変わってくる。
 【9】同じ人生を生きるのであれば、悲し
く生きるより楽しく生きた方がよいに決まっ
ている。人の世に興味を持ち積極的に取り組
んでいけば必ず道は開ける。積極的といって
も、がむしゃらに人を押しのけて突き進むこ
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とではない。【0】すべてを肯定的に考える
努力をするという意味だ。肯定的に考える姿
勢から余裕が生まれ、人の∵ことも考えられ
るようになる。
 大所高所から見れば、人間はお互いに力を
合わせて助け合っていく以外に平和に生きて
いく道はない点は誰の目にも明らかである。
この簡単な道理を常に忘れないで、毎日の生
活の場やビジネスの場にフレキシブルな態度
で臨む必要がある。竹のように強くしなやか
でありたい。
 人間同士で上手に生きていくコツは、角が
立たないように智( ち)に働き、流されな
いように情に樟(さお)さし、窮屈にならな
いように意地を通していくバランス感覚にあ
る。

(山崎武也「一流の人間学」より)