長文集  7月3週  ★アサガオの研究家の(感)  yabi2-07-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】アサガオの研究家のこんな話を読み
ました。
 アサガオは夜明けに咲きます。私たちは、
アサガオは、朝の光を受けて咲くのだと考え
ています。
 【2】しかし、事実はそうでありません。
アサガオのつぼみに二十四時間、光を当てて
おきます。そうして朝の光に当てる。しかし
咲かなかった。
 では、どうしてアサガオは朝咲くのでしょ
うか。
 【3】アサガオには朝の光に当たる前、夜
の冷気と闇にさらされている時間があります
。これが不可欠なのだそうです。
 この話は実に感動的で、示唆に富んでいま
す。【4】私たちは、朝の光を受けて鮮やか
に花開くアサガオに目を奪われがちで、アサ
ガオには朝の光と温度が必要なのだと考えて
しまいます。
 【5】アサガオが、夜の冷たさと深い暗闇
に包まれる時間があって、はじめて咲くこと
ができるのだ、ということに気づかないし、
忘れています。
 このことは一人ひとりの人生にも、歴史に
も、なぞらえることができます。
 【6】今、自分がここにいます。私たちを
取り囲む環境があり、状況があり、それらを
押しくるむ空気があります。それらが今とい
う時代を形作っています。
 【7】しかし、手で触れ、目で見ることが
できるここだけを考えていても、何もわから
ないでしょう。それは朝の光を受けているア
サガオだけを見るようなものです。
 【8】その前に冷たく暗い夜があってアサ
ガオは朝の光の中で咲いているのだ、という
ことがわかりません。そして、アサガオを咲
かせるために常に光を当て、温度を与えるよ
うな過ちを犯してしまうことになります。
 【9】私が忘れ去られたもの、埋もれたも
の、見失われたものに関心を向けるのは、こ
のこととつながってきます。今の自分を自分
たらしめているものがそこにあると思うから
です。それに気づいたと∵き、私たちの生き
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方もより確かなものになっていくのではない
でしょうか。【0】

(出典 五木寛之・福永光司「混沌からの出
発」)