ビワ2 の山 7 月 3 週 (5)
★アサガオの研究家の(感)   池新  
 【1】アサガオの研究家のこんな話を読みました。
 アサガオは夜明けに咲きます。私たちは、アサガオは、朝の光を受けて咲くのだと考えています。
 【2】しかし、事実はそうでありません。アサガオのつぼみに二十四時間、光を当てておきます。そうして朝の光に当てる。しかし咲かなかった。
 では、どうしてアサガオは朝咲くのでしょうか。
 【3】アサガオには朝の光に当たる前、夜の冷気と闇にさらされている時間があります。これが不可欠なのだそうです。
 この話は実に感動的で、示唆に富んでいます。【4】私たちは、朝の光を受けて鮮やかに花開くアサガオに目を奪われがちで、アサガオには朝の光と温度が必要なのだと考えてしまいます。
 【5】アサガオが、夜の冷たさと深い暗闇に包まれる時間があって、はじめて咲くことができるのだ、ということに気づかないし、忘れています。
 このことは一人ひとりの人生にも、歴史にも、なぞらえることができます。
 【6】今、自分がここにいます。私たちを取り囲む環境があり、状況があり、それらを押しくるむ空気があります。それらが今という時代を形作っています。
 【7】しかし、手で触れ、目で見ることができるここだけを考えていても、何もわからないでしょう。それは朝の光を受けているアサガオだけを見るようなものです。
 【8】その前に冷たく暗い夜があってアサガオは朝の光の中で咲いているのだ、ということがわかりません。そして、アサガオを咲かせるために常に光を当て、温度を与えるような過ちを犯してしまうことになります。
 【9】私が忘れ去られたもの、埋もれたもの、見失われたものに関心を向けるのは、このこととつながってきます。今の自分を自分たらしめているものがそこにあると思うからです。それに気づいたと∵き、私たちの生き方もより確かなものになっていくのではないでしょうか。【0】

(出典 五木寛之・福永光司「混沌からの出発」)