長文集  9月3週  ★地球規模で自然環境が(感)  wapi2-09-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】地球規模で自然環境が危機に瀕して
いる現代にあって、地球環境問題は、国境を
超えた広範な地域で考えられねばならない問
題である。その原因は個人や企業、街や地域
などの環境負荷の総和から成り立っている。
【2】つまりすべての自然環境問題には人間
が関与しているのであって、その背景には環
境の保全と育成を怠った人間優先の姿勢がう
かがわれる。この反省のもとに、近年とくに
地球の生態系に目を向けた取り組みが急速な
勢いで高まりをみせている。
 【3】人間中心主義による環境破壊を反省
し、「他者」としての自然を修復し育てるた
めの活動が、現在のエコ活動の本論となって
いる。そしてここでもまた人類総体として、
グローバルな見地から巨大な貢献心が発動さ
れ、地球規模での自然環境を「他者」とする
種々な取り組みが進められている。【4】と
ころが現実に進行しているエコ活動のなかに
は、本来の貢献活動から考えると意味を異に
する内容があるような気がしてならない。貢
献心の視点からこれらの問題点を考えてみよ
う。
 【5】たとえば有限な資源である化石資源
(石油や石炭)を守ることは持続的な経済に
とって大切なことである。他方、代替エネル
ギーとして開発が進められている原子力発電
には、環境上の深刻な問題が取り沙汰されて
いる。【6】またオゾン層を破壊する原因と
して、フロンガスの影響がクローズアップさ
れ、さらに新たに開発された物質については
、もっと強い温室効果が囁かれている。
 【7】それだけではない。人口爆発が指摘
されるアフリカや東南アジア地域の食糧確保
の問題は深刻だ。最大の食糧輸出国である米
国では世界の食糧事情を改善させるという名
目で、無制限な大規模農法を行った結果、地
下水脈を枯渇させて、土壌の悪化に拍車をか
けてしまった。【8】たとえば米国中部にあ
る広大なプレイリー地域の生態系に起きた異
変は、大規模農法による弊害とされ、枯渇し
てしまった水脈を修復するには何万年という
自然放置期間が必要とさ∵れるといわれてい
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る。
 【9】これらの例に見るように、人間が自
然を利用して何らかの問題に取り組もうとし
て開発した方法が、次々と新たな自然破壊を
もたらすといった悪循環が指摘されているの
である。
 【0】そこには人間中心の開発主義があっ
た。つまり人間が必要とする活動によって自
然環境がダメージを受け、その結果、不都合
なことが起きたから、今度はエコ活動を進め
て、人間にとって都合のよいものに開発して
いこうとする考え方である。
 さて、ここで見えてくるエコ活動には、私
が言う貢献心はまったく示されていない。な
ぜなら人間が「自然」のためにとの名目で、
実は「自分」のために行う行為に、他者であ
る自然に向けての「貢献」の意識は欠落して
いるからだ。その実態はむしろ「エコ」では
なく「エゴ」である。
 たとえ手前勝手でも、自然環境について考
えたり、またみずみずしい自然を回復したい
と願う自然な動機は間違ってはいない。ただ
しそんな純粋な動機でさえ、あまりにも特定
の自然に集中していると、ふと気がつくと自
分勝手なものに陥って、自然を破壊してしま
う方向に向かってしまう。このような動きに
私たちは監視の目を怠ってはならない。その
ため現在のエコ活動にある発想をもう一度検
証してみる必要性はないだろうか。
 現在、G7や環境サミットなど、世界のト
ップが集まって提起されるグローバルな宣言
についても、やはり「これからは人間中心の
発想で問題を解決する」といった方向性が示
されているが、私にはそう簡単には受け止め
がたい。なぜなら、そこには依然として「人
間中心」といった発想に含まれる「開発至上
主義」的なニュアンスに歯止めがかけられて
はいないように思われるからだ。実は、この
「人間中心主義」こそ、人類を「開発至上主
義」に向かわせたそのものの原因となったか
らである。

(滝久雄「貢献する気持ち」による)