長文集  7月3週  ★「フランダースの犬」は(感)  wapi-07-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】「フランダースの犬」は、私に多く
のことを感じさせた が、自身で腰をすえて
見た最後のアニメになった。やがて、子ども
を持つようになり、「子育て補助材」として
「アニメ」との付き合いが再開した。【2】
そのようななか、子どもがもの心つきだすと
「それいけアンパンマン」(日本テレビ系列
)をよろこんで見るようになった。
 アニメ化される前から絵本で「アンパンマ
ン」を知っていたが、困った人を助けるほの
ぼのした話が多く好印象を持っていた。【3
】主人公は地味で体裁悪いが、懸命に人助け
をしていた。それだけに、アニメに対しても
、もの心つきだした子どもに、多くの教訓を
あたえてくれるものと期待していた。【4】
絵本では体裁の悪かった主人公もアニメでは
洗練され、ヨーロッパ風の街並みや雪をいた
だいた山々など背景も美しく、見た感じも良
くなっている。わが家でも、ビデオに録画し
た「それいけアンパンマン」を、親の手を解
放して欲しい時などなん度も見せていた。
 【5】しかし、いく度か見せているうちに
、原作者やなせたかし氏がテレビアニメ化を
意識せずに絵本にえがいていたころの「アン
パンマン」と、テレビアニメ「それいけアン
パンマン」が別物に思えてきた。【6】最初
のころの絵本は、悪者バイキンマンが登場す
ることも少なかったが、アニメでは、若干の
例外をのぞいてバイキンマンが必ず登場し、
悪さのかぎりをつくし、説得もさとしも通じ
ず、最後はアンパンマンが「もう許さないぞ
バイキンマン! アーンパンチ!」でやっつ
けるという、まるで水戸黄門のようなワンパ
ターンをくり返している。
 【7】さすがに、「殺す」とか「死ね」と
いった言葉はふせられているが、「とどめだ
」「やっつけてやる」という言葉で悪者がな
にをしようとしているか、幼児たちにも十分
わかる仕かけになっている。
 【8】一九八八年の放映開始から十年近く
たつが、バイキンマンと主人公たちの心の距
離はちぢまらない。相手になにが不足で、ど
うすれば歩みよれて争わずに済むのか、問題
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を根っこから解決しようとする場面がこのア
ニメでは登場しない。【9】残念ながら、テ
レビアニメの「それいけアンパンマン」は、
悪者はどこまでも悪い奴で、たたきのめすし
かない」という考えを、幼い子どもたちにイ
ンプットしてしまいそうだ。子どもにこのア
ニメを見せた後、「お友だちとケンカになら
へんためには、どうしたらいいやろね」「ケ
ンカしても、なんでケンカになったか、後で
考えようね」など、いつもなにかフォローを
付けなければならなかった。
 ∵【0】もう少し子どもが成長すると、テ
レビ朝日系列の「ドラえもん」をよろこんで
見るようになった。これも原作コミックで 
は、ほのぼのとした話が多いのに、テレビア
ニメになると、ずいぶんとエゲツないシーン
がある。
 たとえば、テレビアニメでは毎回のように
、ジャイアンやすね夫はのび太をなぐるシー
ンがあるが、なかには「今日はむしゃくしゃ
するから、のび太でもぶんなぐろう」「のび
太のくせに生意気いうな」といったセリフま
である。
 のび太は、この「いじめ」に、いつも、ド
ラえもんの「道具」をかりて抵抗している。
ところが、立場が変わると、今度はいじめる
側にまわろうとする。けっきょく、調子に乗
りすぎて、もとの木阿弥になるというパター
ンが、放映開始からずっとつづいている。年
に一回、春休みに上映される映画の「ドラえ
もん」では、のび太も少しは根性があり、ジ
ャイアンやすね夫も一方的ないじめっ子でな
いことが多い。主人公たちがいっしょに困難
にぶつかりながら助けあう場面もえがかれて
いる。ところが、テレビアニメののび太は、
一九七九年に放映がはじまってから二十年ち
かく、ドラえもんの道具がなければなにもで
きない、無気力な「劣等生」のままで、まっ
たく成長していない。当然、毎週放映される
テレビアニメの方が、子どもたちの目にふれ
る機会は、はるかに多い。せっかく原作コミ
ックや劇場用長編アニメで子どもたちに教訓
をあたえているのに、よりポピュラーなメデ
ィアであるテレビアニメの短絡さが気になっ
てしかたない。もちろん、「それいけアンパ
ンマン」や「ドラえもん」だけに問題がある
のではない。もっとエグいものはいくらでも
ある。しかし、この二つのだれもが知ってい
るアニメ番組ですら人と人がじっくり向き合
い、どうすれば問題が解決するのか、掘り下
げて考える場面が出てこない。少なくなって
いく子どもたちの体験の場をおぎなうのでは
なく、短絡的なワンパターンをくり返すこと
で、長寿番組になっている。
 日本では、もめごとを「相手よりも強い力
」や「他人の力」で、解決してすますアニメ
が多いが、もし、だれかにひどい目にあわせ
られている子どもがいるとして、彼のもとに
「アンパンマン」は助けにきてくれないし、
「ドラえもん」も近くにいない、となればい
ったい、どうすればいいのだろう。