長文集  7月2週  ★最近のいじめの例では(感)  wapi-07-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】最近のいじめの例では、先輩後輩関
係の中ではいじめが発生していないという点
が特徴的であるように思われる。上級生が下
級生をいじめるというケースがほとんどない
。【2】実際に子どもの付き合いの範囲が、
兄弟姉妹という世代間関係ではなくて同一の
学年に集中してきている。子どもの大半が「
ひとりっこ」で、世代間関係の付き合いのし
かたが子どもの文化のなかで育っていないよ
うに見える。
 【3】私がいじめられたときには先輩が守
ってくれた。先輩からいじめられることもあ
ったが、さすがに手加減してくる。つまり、
先輩後輩関係は、それもいじめの発生原因で
はあるが、「管理されたいじめ」という特徴
をもちやすい。【4】兄姉は家庭のなかで 
も、弟妹に対して保護しながら利用するとい
う関係をつくる。この世代間関係が、「管理
されたいじめ」という関係を生み出してい 
た。それが現在、ひとりっこ化で失われてし
まった。
 【5】いじめに対する対策として、子ども
のなかに世代間関係を育てることは試みられ
てよいと思う。年長者が、年少者を保護した
り指導したりするというタイプの経験が、今
の子どもにはなさすぎる。【6】具体的な役
割の決まった行動が不足しているので、子ど
もはいじめる人、いじめられる人という役割
をつくり出してしま う。
 学校では、先生という頂点をもとに各人が
機械的に平均的な態度をとるようにつねに圧
力が働いている。【7】成績の良い子、身体
の強い子などの差異は、極力、控えめにしか
表現されないように仕向けられている。子ど
もには、自分が何であるのかの確認ができな
いという漠然とした不安がある。【8】自分
というものを発揮しようとすれば、成績を上
げるよりほかにはない。学校のなかでの評価
価値基準が、あまりにも単純化してしまって
いる。
 【9】差異を示すこと、攻撃性を示すこと
は、学校のなかではなるべく回避される傾向
にある。たとえば運動会では、昔は花形だっ
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た騎馬戦がなくなった。1、馬になる生徒と
乗り手になる生徒が差別される。2、危険が
あって事故の場合の責任がとれない。【0】
3、子どもに攻撃性を身に付けさせる必要は
ない。このような現代の学校を支配する差別
排除の文化の中で失われたのは、次のような
要素で∵ある。1、上下、強弱、男女、大小
、長幼などの違いに応じた役割分担で共同の
目的を達成する。2、危険について自己責任
の範囲を明確にする。3、攻撃性の管理され
た発揮の方法を教え る。
 現在、学校で教えていることは、攻撃性を
発揮してはいけないという口先だけのタテマ
エである。競争心を煽ることもいけないとさ
れている。しかし、実際には、できる子ども
とできない子どもがいる。この違いを学校は
隠そうとするが、隠しきれない。(中略)
 子どもに競争に勝つことによる優越感を経
験させるほうがいじめ減らしになる。ただし
、その競争の種目が一つではいけない。一つ
しか種目がないとビリの子どもは永遠にビリ
である。複数の種目があって、数学でトップ
でもカラオケでビリ、短距離走でトップでも
習字でビリというような複合的な組み合わせ
で競争すべきである。子どもは自分が勝てる
種目を選んで自分の優越感を満たそうとする
だろう。これが個性の発揮である。
 現在の学校は受験競争という種目しか提供
していないし、それもタテマエ上、子どもの
競争心を煽ってはいけないという欺瞞的な平
等主義が支配している。
 他者危害の原則は、「競争に勝ってよい」
ということを含んでいる。自由競争の禁止で
はなくて、自由競争の条件の公平を保証する
ことが倫理的な条件である。競争するという
ことは、心理的には攻撃性の発揮であるが、
相手にチャンスの平等を保証する限りで、倫
理的な他者危害ではない。フェアプレーの精
神を高めて、競争させることは、いじめ対策
の大事な点であるが、現在の教育者の多くは
「競争をさせないこと」がいじめ対策だと誤
解している。基本は「他者危害の原則」であ
る。この原則を学校で教えられる体制になっ
ていないということが、最大の問題点である


(加藤尚武「現代を読み解く倫理学――応用
倫理学のすすめ2」より)