1. さああまがえるどもはよろこんだのなんのって、チェッコという
算術のうまいかえるなどは、もうすぐ暗算をはじめました。いいつけられるわれわれの目方は拾
匁(
約三十七グラム)、いいつける
団長のめかたは百
匁、百
匁わる拾
匁答十。仕事は九百
貫目、九百
貫目かける十、答九千
貫目(
約三万四千キロ)。
2.「九千
貫だよ。おい。みんな。」
3.「
団長さん。さあこれから
晩までに四千五百
貫目、石をひっぱってください。」
4.「さあ王様の
命令です。引っぱってください。」
5. 今度は、とのさまがえるは、だんだん色がさめて、あめ色にすきとおって、そしてブルブルふるえてまいりました。
6. あまがえるはみんなでとのさまがえるをかこんで、石のあるところへつれて行きました。そして
一貫目ばかりある石へ、
綱をむすびつけて
7.「さあ、これを
晩までに四千五百運べばいいのです。」といいながらカイロ
団長の
肩に
綱のさきを引っかけてやりました。
団長もやっと
覚悟がきまったと見えて、持っていた鉄の
棒を投げすてて、目をちゃんときめて、石を運んで行く方角を見さだめましたがまだどうもほんとうに引っぱる気にはなりませんでした。そこであまがえるは声をそろえてはやしてやりました。
8.「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
9. カイロ
団長は、はやしにつりこまれて、五へんばかり足をテクテクふんばってつなを引っぱりましたが、石はびくとも動きません。
10. とのさまがえるはチクチクあせを流して、口をあらんかぎりあけて、フウフウといきをしました。まったくあたりがみんなくらくらして、茶色に見えてしまったのです。
11.「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
12. とのさまがえるはまた四へんばかり足をふんばりましたが、おしまいのときは足がキクッと鳴ってくにゃりとまがってしまいました。あまがえるは思わずどっとわらいだしました。がどういうわけかそれから急にしいんとなってしまいました。それはそれはしいんとしてしまいました。みなさん、このときのさびしいことといった∵ら
私はとても口ではいえません。みなさんはおわかりですか。ドッといっしょに人をあざけりわらってそれからにわかにしいんとなったときのこのさびしいことです。
13. ところがちょうどそのとき、またもや青ぞら高く、かたつむりのメガホーンの声がひびきわたりました。
14.「王様のあたらしいご
命令。王様のあたらしいご
命令。すべてあらゆるいきものはみんな気のいい、かあいそうなものである。けっしてにくんではならん。
以上。」それから声がまたむこうのほうへ行って「王様のあたらしいご
命令。」とひびきわたっております。
15. そこであまがえるは、みんな走りよって、とのさまがえるに水をやったり、まがった足をなおしてやったり、とんとんせなかをたたいたりいたしました。
16. とのさまがえるはホロホロ
悔悟のなみだをこぼして、
17.「ああ、みなさん、
私がわるかったのです。
私はもうあなたがたの
団長でもなんでもありません。
私はやっぱりただのかえるです。あしたから仕立屋をやります。」
18. あまがえるは、みんなよろこんで、手をパチパチたたきました。
19. 次の日から、あまがえるはもとのようにゆかいにやりはじめました。
20.(
宮沢賢治「カイロ
団長」)