1.【1】「ごはんですよ。」
2.キッチンから、お母さんの声がしました。ソースを
煮込むので、そのにおいでとっくにメニューはわかっています。だから本当は勉強していることになっているけれど、ぼくは気もそぞろで、今か今かと部屋のドアを開けて待っていたのです。
3. 【2】和食、
中華、洋食、エスニック、日本では外国に行かなくても、
各国の
料理が楽しめます。お店で食べるだけでなく、いろいろな
食材が売られているので、家でも食べることができます。なんて幸せなのだろうと、ぼくはごはんのたびに思います。
4. 【3】ぼくが
特に好きなのは、イタリアンです。オリーブオイルとガーリックの
香りや、トマトの
酸味、
複雑なハーブの味わいなどがぼくの五感を
刺激します。中でもパスタ
類は
特別で、何もない時は、めんをゆで、オリーブオイルとパルメザンチーズだけで食べられるくらいです。
5. 【4】今夜は、
野菜もたっぷり入れたスペシャルミートソースです。ぼくは、フォークにスパゲティを
巻きつけながら、うっとりと、
6.「どうしてこんなにおいしいのかなあ。本当に毎日でも食べたいよ。」
7.と言いました。
8. 【5】すると、
9.「
啓介は、お母さんのおなかにいるときから、スパゲティが
好きだったからね。」
10. 実はこの話は、毎回
繰り返されるのですが、お母さんは話したことなど、すっかり
忘れて、まるでそれが
初めてのようにいつも
不思議そうに語ります。
11.【6】「お母さんはずっと和食
党だったのに、どういうわけか、
啓介がおなかにいるとき、調子が悪くてもミートスパゲティだけは食べられたの。毎日でもいいくらいに。」
12. そこで決まって、妹ののり子が、
13.「その話、何回も聞いた。」
14.と言います。∵
15. 【7】半分くらい食べた時点で、お母さんが立って、おかわりの分のめんをゆで始めます。ぼくは、たくさん食べるので、二回に分けないとめんが
伸びてしまうからです。
16.「アル・デンテでお
願いね。」
17.ちょっと生意気に、そうオーダーします。
18. 【8】ぼくは、ちょっと
固めのゆであがりが
好みです。
最初は、
柔らかいものだと思っていたのですが、いとこのお姉ちゃんといっしょにビストロに行った時、「
絶妙な歯ごたえ」のアル・デンテという
状態が
最高なのだと教えてもらったのです。
19. 【9】友だちに人気があるのは、
焼肉、お
寿司、カレーというラインナップで、イタリアンなどという子はあまりいません。でも、本当においしいので、いつかイタリアンシェフになって、子どもにも人気のあるお店を作りたいと思っています。そんなことを考えながら、ぼくはおかわりしたお皿を両手で受け取りました。【0】
20.(言葉の森
長文作成委員会 φ)