長文集  10月4週  ○身近な自然は  tu-10-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:55:15
 身近な自然はありふれているだけに、失っ
てからでないとたいせつさに気づかないとい
う矛盾をかかえています。それだけでなく、
高度成長の時代には、住民自らが望んで遠ざ
けたのです。
 親しみやすい等身大の自然も、油断すると
大敵に変身します。裸足で小川に入ると、ガ
ラスの破片やとがった岩で足を切るし、まれ
にはおぼれて命をとられることもあります。
淀川などすこし大きくなると、不思議にもあ
きらめが先に立ちます。しかし等身大の小川
やため池になると、くやしさがまさり、だれ
かに怒りをぶつけたくなり、裁判に訴えるケ
ースが増えてきました。
 民主主義がみんなのものになり、泣き寝入
りしないで行政の責任を問う市民が増えたこ
と、裁判所が行政責任をきびしく問い、住民
が勝訴するばあいがあったことは評価できま
す。しかし地域住民が参加しないで、後の対
策を行政だけに負わせる結果になったこと 
は、いまから考えると大きな矛盾を生みだし
ていたのです。
 淀川など大きな川にはない金網が、小さな
川に張られてしまいました。落ちたりけがを
することは確かに少なくなりましたが、反面
で身近な自然を生活の場から遠ざけることに
なってしまいました。子どもの遊び場でなく
なると、とうぜん関心がうすれます。自転車
や単車が捨てられていても長いあいだそのま
まになっていますし、雑草も年一回刈り取ら
れるくらいなので景観もよくありません。家
庭排水の捨て場になり、汚れてくると埋(う
め)立てて道路にしたほうがいいということ
になり、小さな川が街のなかから消えていき
ました。
 思わぬところで矛盾が頭をもたげます。十
年ほど前、子供会で遠足に行ったとき、就学
前の女の子がなにかにつまずいて倒れまし 
た。手が出ず顔をまともに地面にぶつけたの
です。本能で手が出るのではなく、戸外で遊
びながら身につける運動能力の一つだった∵
のです。最近は小学生にもいるとの報道があ
りました。
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 ある衛星都市の保育所では、すこし手足に
けがをすると、もうれつに怒るお母さんがい
るそうです。理屈上はけがをさせたことにな
るので、責任を問われると対応せざるをえま
せん。朝来園したと き、家でついた傷か否
かのチェックをしなければならなくなったそ
うです。家庭での生活能力がおとろえるにし
たがって増えてきた遅刻指導がエスカレート
して、生徒を殺してしまった状況と似ていま
す。「すみません」ですまない世界がどんど
んひろがりつつあるようです。

(森住明弘「環境とつきあう50話」)