長文集  10月1週  笑った赤べこ  tu-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:21:19
【1】「ああっ。」
私は、目を疑いました。石井君の指は、小さ
な赤べこをつまんでいました。赤べことは、
福島県の郷土玩具(がんぐ)で、「赤いべ 
こ」つまり、赤い体をした、牛のことです。
首が振り子のようにゆらゆらゆれる、とても
ユーモラスな格好の牛です。【2】私の赤べ
こは、キーホルダーになっています。それを
ランドセルに下げていました。石井君はふざ
けて触って遊んでいたのですが、何かの拍子
にはずれてしまったようです。いっしょにい
たさやかちゃんが、あわててつけ直してくれ
ようとしました。【3】しかし、赤べこの背
中についていた輪っかが折れていて、もうチ
ェーンとつなげることができなくなっていま
した。石井君は、いつものいたずらぼうずの
顔から、びっくりした顔になって、
「ごめん。取れちゃった。」
と言いました。
 【4】この赤べこは、私が一年生のとき、
福島のおばあちゃんが送ってくれたものです
。私の赤いランドセルにぴったりだったの 
で、一年生のときからずっと、お守り代わり
につけています。私の大事な大事な宝物(た
からもの)です。
 【5】でも、私は、石井君がわざと壊した
わけではないと知っていました。私は、なる
べく明るい言い方で、
「あ、いいよ。これ、たぶんもう古くなって
いたんだ。」
と言いました。石井君は、少しほっとした顔
になりましたが、もう一度、
「でも、ぼくがひっぱったから……。」
と、小さく言いかけました。【6】私は、
「いいの、いいの。気にしない。そういう運
命だったんだから。」
と、元気に言って、赤べこを手に取りました

 壊れた赤べこに目をやると、赤べこは、の
んびりした顔で、手のひらに横たわっていま
す。【7】じっと見ていると、不思議なこと
に赤べこが少し笑ったような気がしました。

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「まあまあ、そんなにしんべ(心配( ))
しねえで。」
そんな牛の言葉まで聞こえた気がして、ふと
顔を上げると、石井君もじっと赤べこを見つ
めています。私たちは、顔を見合わせて、思
わずくすっと笑いました。
 【8】その日、私は家に帰ってから、お母
さんに、壊れてしまった赤べこを見せました
。お母さんは少し驚いた顔をしましたが、事
情を聞くとすぐに納得してくれました。そし
て、赤べこを見なが ら、
「石井君、気にしていないといいね。」
と言いました。【9】私は、牛の声を聞いた
んだから大丈夫、と心の中で思いました。
 お父さんが帰ってきたら、たぶんうまく直
してくれるでしょう。今度、福島のおばあち
ゃんの家に行くときに、元気になった赤べこ
を一緒に連れていくつもりです。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 
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