セリ の山 3 月 4 週 (5)
○薬だった砂糖   池新  
 時計が動くには電池が必要なように、私たちが生きて活動するためには、エネルギーが必要です。そのエネルギーを、私たちはご飯を食べることで体に取り込んでいます。お米やパンの中に多く含まれているデンプンは、糖質と呼ばれるものの仲間で、人間の体の大事な栄養の素です。砂糖も、この糖質の仲間です。デンプンも砂糖も、いちばん小さい単糖類というのものに分解されて体に吸収され、私たちのエネルギーになりますが、脳や神経は、単糖類の一種であるブドウ糖だけしかエネルギーとして利用できません。つまり、脳や神経を働かせるために、糖質はなくてはならないものなのです。脳や神経は、砂糖のおかげで、さっと動くことができるというわけです。
 最近では「太る」とか、「糖尿病になる」とか、「虫歯になる」などと言われて、ちょっと悪者扱いの砂糖ですが、じつは私たちにとってはなくてはならない調味料です。昔のヨーロッパでは、栄養豊富な薬として使われていたこともありました。昔、砂糖は、現在の石油のように輸入しなければならない高価な食品だったのです。また、日本でも、江戸時代ごろから砂糖を輸入し始めましたが、最初のころ、砂糖はやはり薬として高い値段で輸入されていました。
 どうして砂糖を輸入しなければならなかったかというと、砂糖は最初、サトウキビから作られていたからです。サトウキビというのはイネ科の植物で、熱帯や亜熱帯などの暑い地方でしか栽培できないので、ヨーロッパなどでは作ることができませんでした。日本では、現在は沖縄と南西諸島で作られています。
 サトウキビは、高さが人間の背の倍ぐらい、茎の太さが手首ぐらいの、竹とススキを足して二で割ったような姿をしています。
 サトウキビは暑い地方でしかとれなかったので、ヨーロッパで力∵のあったスペインやポルトガル、イギリスやフランスなどは、そういう暑い地方を自分たちの植民地にしました。そして、その地方の人々や、アフリカから奴隷として連れてきた人たちを働かせて、砂糖を作らせたのです。
 しかし、そういう植民地を持たない国は、サトウキビ以外のものから砂糖を作る研究を進めました。そして、今のドイツであるプロイセンの研究者が、サトウダイコンにも砂糖が含まれていることを発見しました。フランスのナポレオンがサトウダイコンの栽培に力を入れると、砂糖はヨーロッパ中に広まりました。
 サトウダイコンは、テンサイやビートとも呼ばれ、カブに似た植物で、この根から砂糖をとることができます。サトウキビと違って、涼しい気候でよく育つので、日本では北海道で栽培されています。ロシア民話に出てくるカブは、たいていはこのサトウダイコンのことです。
 現在、砂糖の約七割は、やはりサトウキビから作られています。残りの三割が、サトウダイコンから作られています。また、サトウカエデの幹に穴を開(あ)け、そこから出てくる液を集めて煮詰めたものがメープルシロップで、カナダのものが有名です。
 「宿題しなさい。」と言われて、「ちょっと待って。おやつを食べてから。」というのは、脳に栄養を与えてよく働くようにするという意味で正しいことです。「腹が減っては戦(いくさ)はできぬ」と言いますが、それは脳にとっても同じです。
 砂糖は今、サトウキビやサトウダイコンやサトウカエデから取れますが、将来、品種改良が進んで、ニンジンやゴボウやショウガからも取れるようになるかもしれません。
「どうですか。ショウガさん。」
「さあ、どうでしょうが。」
 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(τ)