長文集  3月3週  ★事件がおこったのは(感)  se-03-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】事件がおこったのは、今から約百年
前の一八八五年七月六日のことでした。二日
前に狂犬病の犬にかまれたかわいそうな犠牲
者が、かれらの実験室につれてこられました
。ジョゼフ=メイステルという少年です。
 【2】パストゥールははじめ少年の治療を
ことわりました。かれの方法は、まだ治療に
使えるような段階ではなかったからです。し
かし、友人のビュルパン医師とグランシェー
ル医師が、かれを説得しました。なにもしな
くても少年はまちがいなく死んでしまいま 
す。【3】それは治療してもしなくても、こ
れ以上悪くなることはないということでした

 パストゥールは決心しました。四十年とい
う長い研究のあと、パストゥールはついに人
間にたどりつきました。
 【4】狂犬病はかならず死ぬ病気でした。
 しかし、パストゥールにとっては都合のよ
いこともありました。それは、狂犬病の犬に
かまれてから、実際に狂犬病の症状があらわ
れるまでに一か月くらい時間がかかることで
す。【5】この一か月のあいだに、パストゥ
ールはジョゼフ少年に、毒性の弱いウイルス
を接種して予防し、次に接種するもう少し強
いウイルスに対し、免疫にすることができま
す。
 【6】七月六日の夜に、グランシェール医
師は、できるだけ弱めた脊髄液をつかってワ
クチンを接種しました。それから毎日すこし
ずつ強いものを接種していきました。十日め
、もっとも毒性の強い狂犬病ウイルスを接種
しました。
 【7】このときの不安がどんなに大きいも
のだったか、みなさ ん、想像することがで
きますか。
 この病原ウイルスは、とても毒性が強いの
で、それだけでも少年の命をうばってしまう
はずです。【8】しかし、さきに少年の体内
にはいった病原ウイルスのあとを追ってはい
りこんだ、この強い∵狂犬病ウイルスは、目
的をかえてしまいました! 【9】殺さない
で、ぎゃくに少年を守ったのです。症状があ
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らわれるはずであった八月ごろには、ジョゼ
フ少年の体は病気に対して抵抗できる状態、
つまり免疫になっていました。【0】
 
 「細菌と戦うパストゥール」(ブラーノ=
ラトゥール)偕成社