1. 【1】パストゥールは
狂犬病の
研究からはじめました。年に千人くらいの人しか
死なないのですが、
狂犬病は、おそろしい
病気です。
2. なぜこの
病気を
選んだかというと、
狂犬病はだれもが
疑わない
伝染病であったことと、この
病気が人間の
病気である前に犬、オオカミ、キツネ、
猫、ウサギなどの
動物の
病気だったからです。【2】もちろん人間の体をつかって
実験することなどできませんが、
狂犬病だと
動物を
使った
実験ができるのです。
3. しかしこの
選択によって、大きな
問題にぶつかることになりました。【3】
狂犬病の
原因となっている
微生物は、
顕微鏡ですら見ることができないほど小さなものだったのです。それは
ろ過性のウイルスとよばれるもので、つまり、もっとも目のこまかいろ紙も通ってしまうウイルスなのです。
4. 【4】パストゥールは
病原菌を見ることができないまま
研究をつづけることになりました。もっと
悪いことには、このウイルスは、大きな
細菌のようにじゃがいもやスープや
尿の中で
培養することができません。【5】
動物の体だけが
繁殖できる
場所でした。あきらめたほうがりこうかもしれません。でも、「
幸運は
大胆な人にほほえむ」ということばをみなさんはもう知っていますね。
5. パストゥールは犬
小屋をつくって、つぎつぎと犬に
狂犬病をうつしていきました。【6】
狂犬病にかかった犬の
脳をすこしとっては、つぎの犬の
脳に
注射するのです。
6. 十日後、この犬はあわを
吹いて、はげしくほえはじめ、そしてもがき
苦しんで、
死んでいきました。そのあとは、今までの
方法を
採用しました。【7】
微生物を
培養して、ひとつの
培養基から、
他の
培養基へ
微生物をうつしていくあのやり方です。こうして、
狂犬病の
培養基をいつでも手に入れることができるようになったのです。∵
7. つぎに、ウイルスを弱める
方法を見つけなければなりません。【8】
害のないものにするのですが、
病気から
動物の体を
守ることができるものでなければなりません。かれは、むずかしいけれども
効果的な
方法をとりいれました。犬のウイルスをサルにうつすと、
狂犬病がすこし
軽くなるのです。【9】このサルから
病原ウイルスをとって、またべつの犬にうつします。するとこの犬は
毒性の強い
狂犬病のウイルス
に対しても
免疫になります。
反対に犬の
狂犬病をウサギやモルモットにうつすと、もっと
毒性の強い
狂犬病になりました。
8. 【0】パストゥールはまもなく、自分の
実験室で、とても弱いものからたいへん
危険なものまで、いろいろな強さの
狂犬病ウイルスを
持つことになりました。一八八四年八月、
公式の
委員会でパストゥールは、
毒性を弱めた
狂犬病ウイルスで
免疫になった二十三
匹の犬は、
猛毒なウイルスを
注射しても
狂犬病にかからず、
免疫にされなかった犬は、ほとんど
狂犬病にかかったことを
説明しました。
9. 見えないウイルスを
自由にあやつることが
可能になったこの
研究は、
画期的なものでした。
10.
11. 「
細菌と
戦うパストゥール」(ブラーノ=ラトゥール)
偕成社