長文集  3月2週  ○パストゥールは狂犬病の研究から(感)  se-03-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/17 19:35:10
 【1】パストゥールは狂犬病の研究からは
じめました。年に千人くらいの人しか死なな
いのですが、狂犬病は、おそろしい病気で 
す。
 なぜこの病気を選んだかというと、狂犬病
はだれもが疑わない伝染病であったことと、
この病気が人間の病気である前に犬、オオカ
ミ、キツネ、猫、ウサギなどの動物の病気だ
ったからです。【2】もちろん人間の体をつ
かって実験することなどできませんが、狂犬
病だと動物を使った実験ができるのです。
 しかしこの選択によって、大きな問題にぶ
つかることになりました。【3】狂犬病の原
因となっている微生物は、顕微鏡ですら見る
ことができないほど小さなものだったのです
。それはろ過性のウイルスとよばれるもので
、つまり、もっとも目のこまかいろ紙も通っ
てしまうウイルスなのです。
 【4】パストゥールは病原菌を見ることが
できないまま研究をつづけることになりまし
た。もっと悪いことには、このウイルスは、
大きな細菌のようにじゃがいもやスープや尿
の中で培養することができません。【5】動
物の体だけが繁殖できる場所でした。あきら
めたほうがりこうかもしれません。でも、「
幸運は大胆な人にほほえむ」ということばを
みなさんはもう知っていますね。
 パストゥールは犬小屋をつくって、つぎつ
ぎと犬に狂犬病をうつしていきました。【6
】狂犬病にかかった犬の脳をすこしとって 
は、つぎの犬の脳に注射するのです。
 十日後、この犬はあわを吹いて、はげしく
ほえはじめ、そしてもがき苦しんで、死んで
いきました。そのあとは、今までの方法を採
用しました。【7】微生物を培養して、ひと
つの培養基から、他の培養基へ微生物をうつ
していくあのやり方です。こうして、狂犬病
の培養基をいつでも手に入れることができる
ようになったのです。∵
 つぎに、ウイルスを弱める方法を見つけな
ければなりません。【8】害のないものにす
るのですが、病気から動物の体を守ることが
できるものでなければなりません。かれは、
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むずかしいけれども効果的な方法をとりいれ
ました。犬のウイルスをサルにうつすと、狂
犬病がすこし軽くなるのです。【9】このサ
ルから病原ウイルスをとって、またべつの犬
にうつします。するとこの犬は毒性の強い狂
犬病のウイルスに対しても免疫になります。
反対に犬の狂犬病をウサギやモルモットにう
つすと、もっと毒性の強い狂犬病になりまし
た。
 【0】パストゥールはまもなく、自分の実
験室で、とても弱いものからたいへん危険な
ものまで、いろいろな強さの狂犬病ウイルス
を持つことになりました。一八八四年八月、
公式の委員会でパストゥールは、毒性を弱め
た狂犬病ウイルスで免疫になった二十三匹の
犬は、猛毒なウイルスを注射しても狂犬病に
かからず、免疫にされなかった犬は、ほとん
ど狂犬病にかかったことを説明しました。
 見えないウイルスを自由にあやつることが
可能になったこの研究は、画期的なものでし
た。
 
 「細菌と戦うパストゥール」(ブラーノ=
ラトゥール)偕成社