1.【1】「もうお肉
取ってもいい?」
2. 十月に入るころから、ぼくのうちでは日曜日の
夕飯はほとんどなべ
料理です。毎週となると、あきるのではないかと思われそうですが、なべ
料理と言ってもいろいろあるのであきることはありません。【2】ぼくのお父さんは
九州の
博多の
出身なので、
3.「やっぱり
水炊きが一番うまいな。」
4.と、いつも
胸を
張っています。やわらかい
鶏肉と、ものすごくおいしいスープを
味わうとぼくもそうだなあと思います。
5. でも、今夜はお姉ちゃんがリクエストした「かいせんキムチなべ」です。【3】かいせんというのは、海でとれる魚や貝のことですが、ぼくのうちでは「かいせん」の時も
豚バラ肉をいっしょに入れます。お母さんに聞いた話では、キムチなべにもいろいろな
辛さがあって、大人でもヒーヒー言うくらい
辛い本場のチゲなべから、
中辛マイルドなキムチなべまでランクがあるそうです。【4】うちは、ぼくがまだあまり
辛いのは食べられないので
中辛マイルドですが、五年生になったら、
辛口に
挑戦したいと思っています。
6. 【5】なべをやると、
部屋中があたたかい
蒸気に
包まれて、エアコンもいりません。
暑がりのお姉ちゃんは、半そでになってしまうくらいです。なべに
材料を
順番に入れたり、
煮えたものを教えたりする人を「なべ
師」というそうですが、うちのなべ
師はお父さんです。【6】お父さんはみんなに、
7.「長ネギはまだだ。いいと言ってからだ。」
8.「
白菜がとろとろになったぞ。」
9.「
豆腐をくずさないように
取れよ。」
10.「そのはまぐりは、
身が
取れているぞ。」
11.「よし、そろそろ
雑炊だな。」
12.などと
指図します。【7】その
様子はちょっといばっていて、まるで会社の
部長とか社長みたいです。でも、お父さんの言うとおりにやる∵と
絶対失敗しないのでプロだな、と思います。
13. なべ
料理の時は、いつもの
夕飯よりみんなおしゃべりな気がします。【8】ぼくがそう言うと、お母さんは、
14.「一つのなべをみんなでつつくから、
連帯感が生まれるのよ。」
15.と言いました。その時ちょうどおねえちゃんが、
16.「見て、この
白菜も
連帯感が生まれてるよ。」
17.と、キムチのスープで赤くなった
白菜をつまみあげました。【9】それは、はしっこがつながっていて、ぼくの
家族と同じく四切れが万
国旗のように
連なっていました。お母さんはあせって、
18.「
連帯感が
大事!」
19.とごまかしました。
湯気の
向こうでお父さんも
笑っていました。【0】
20.(
言葉の森
長文作成委員会 φ)