1. 【1】トンボ王国は、いうなればトンボと親しむためのカタログです。自然保護の場である以上に、博物館やトンボ池を見て回ることで、トンボやトンボを取り巻く
環境に楽しく関わるための知識を身につける場所として、活用すべきだと考えています。【2】ただ、すべての人びとが、トンボやその
環境を見るだけで、トンボたちの
魅力すべてを知り
尽くすとも思えません。
2. やはり、直接的な関わり、たとえば、子供たちにはズバリ、トンボ採りも体験させるべきだと考えています。【3】その理由は、トンボそのものが、ある
年齢の子供たちにとって「かけがえのない美」の対象だと考えているからです。【4】つまり、人が美しい絵に接した時、模造品でも所有したいと思い、あるいは美しい音楽に接すれば、そのCDがほしくなったり、演奏してみたくなったりするように、「美しいもの」を自分のモノにしたいということは、もっとも人間らしい欲望ともいえるのではないでしょうか。【5】そして、子供の欲望は、大人たちのそれとは
違って、対象に
稀少価値があるからというのでもないのです。
3. ともかく、子供たちがそのような理由からトンボ採りを始めたとき、むげに禁止することは、楽しいはずの身近な自然を逆に、つまらない
退屈なものと感じさせはしないかと案じてしまうのです。【6】子供たちがトンボと同格の立場で勝負を競い、そして過ちとして殺生をしたとしても、周囲の大人たちのアフターケアさえよければ、りっぱな情操教育になると確信しています。
4. 【7】確かに、今の子供たちに虫採りをさせてみると、やたら数ばかり競う
傾向が認められます。しかし、これは、子供の遊びに関わる文化が
退廃しているからにほかなりません。【8】少なくとも、私たちが子供の
頃には、シオカラよりも赤トンボ(ショウジョウトンボ)、赤トンボよりもギンヤンマ、同じギンヤンマでも採集方法によって価値が異なるという、
暗黙のルールがありました。
5. 【9】とはいえ、現在の日本では、いかにルール(保護区内では
網を
振らない、
繁殖期前のトンボは採らないなど)を守ったとしても、大勢の子供たちがトンボ採りに興じられるような
環境はほとんど残されていません。【0】ただ、トンボ王国のまわり、
四万十川流∵域にはまだそのような
環境が残っているのです。トンボ王国の夢、それは、池田谷のトンボ王国を
核として、その周辺に広がるあたりまえの自然
環境のいくつかを、体験ゾーンとして整備し活用することです。そのなかで多くの人たち、特に将来のある子供たちに、トンボの住める
環境がほんとうにすばらしいものだと感じさせることができたなら、その子供たちが大人になった時、日本中に多くの子供たちがトンボ採りに興じられる水辺が再生されるに
違いありません。
6.(
杉村光俊・
一井弘行「トンボ王国へようこそ」より)