長文集  8月2週  ★最近、料理を趣味とする人が(感)  ri-08-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】最近、料理を趣味とする人が増えた
が、初心者とプロとで一つ大きく違っている
ことがある。初心者の場合は本や自分のレパ
ートリーの中から、まず自分のつくりたいも
のを決め、必要な材料を買いにゆく。【2】
材料の中で一つでも手に入らないものがあれ
ば、どこまでも探しにゆく。これに対してプ
ロの料理人は、まず市場をのぞきにゆくとい
う。そしてその日に入荷した材料の中から良
くて豊富な旬のものを見つけると、それを中
心にして活かす料理の設計がそれから始まる

 【3】初心者の場合は技術からの発想であ
る。最初に手持ちの技術と設計があり、それ
に必要な資源を求める。これに対して、プロ
のほうは、資源からの発想というべきであろ
う。【4】最終目標についての大まかなイメ
ージはあろうが、設計が初めからきまってい
るわけではない。まず手に入れられる、資源
を前提にして、それを活用するための技術が
それから決まるのである。
 【5】資源からの発想が可能なためには、
レパートリーが広く、しかも自由にそれを応
用し得る能力が必要である。だが結果的には
その時期ごとに最も良い材料で安く良いもの
をつくることができ る。
 【6】これまでの近代産業技術は、つねに
技術からの発想だったといえる。技術開発も
、はじめに既存の技術があり、それをいかに
修正するかの問題であった。設計図が先にあ
り、それに必要な資源は世界中から運んでき
た。【7】石炭の豊富なところで始まった技
術が全く石炭のないところへ導入されること
もしばしば見られることであった。地元に他
の資源があってもそれが既存の技術に合わな
ければ一切かえりみられず、ひたすら既存の
技術に適する資源を追いもとめてきたのであ
る。
 【8】その結果、石油やウランなど地域的
に偏在のはげしい資源への過度の依存が起こ
り、それをめぐって各国がしのぎをけずり、
国際的な政情の変化に一国の経済基盤が揺り
動かされるようになったことは、今のエネル
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ギー問題が雄弁に物語っている。【9】そし
て今、有力な代替資源が見当たらないまま、
石油資源の枯渇は目に見えはじめている。
 だが資源は本当にないのだろうか?
 エネルギー資源にせよ、鉱物資源にせよ、
最近騒がしくいわれる∵水資源にせよ、よく
考えてみると我々の身のまわりにはかなり豊
富にある。【0】ないのはそれを活用する技
術であり、何よりもそこに目を向ける資源か
らの発想であった。
 近代文明は、技術からの発想に立ってこれ
まで目覚ましい発展をとげてきた。手引き書
の通りやりさえすれば初めての人でも一応の
製品がつくれるからである。日本はまさにそ
の優等生であった。だがそれは所詮、初心者
の料理にすぎなかったのではあるまいか? 
そして今、その基本的な材料の不足に音を上
げている……。
 今日、人類が直面している危機を乗り越え
、新しい文明への道を拓くためには、発想を
一八〇度転換して、技術からではなく、資源
からの発想に切り換え得るかどうかが鍵とな
ることであろう。