長文集  7月3週  ★何といっても、現代技術を(感)  ri-07-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】何といっても、現代技術を特徴づけ
るのは豊富な工業製品の氾濫であろう。少な
くとも先進工業国においては、高い生産性に
裏づけられた安価で高品質の工業製品を容易
に入手することができる。このことが豊かさ
の象徴である。【2】そして途上国において
も、そのような豊かさが目標として設定され
ている。
 現代技術は、とりあえず人間にとって有用
でない自然資源を抽出し精練し、そして加工
して有用なものに変化させることをその中心
としている。【3】豊かさは、このような生
産技術によって支えられる。
 ところが、このような技術の持つ問題が、
最近しばしば話題になる。豊富な工業製品を
つくり出すための条件としての資源エネルギ
ーについては、その限界が指摘されてすでに
久しい。【4】しかも使用し終わった製品の
廃棄については、安全問題などを引き起こし
ながら廃棄場所の重大な不足を招いている。
【5】そしてもっと本質的なこととして、資
源と廃棄という、いわば工業製品の条件のみ
ならず、製品そのものの使用の場面において
さえも、道路の容量に対して過剰な自動車と
か、家の中に入り切らない家庭用機器などの
問題が起きている。【6】しかも道路の新設
は少なくとも都会においてはもはや不可能で
あり、家の広大化は地価の高騰によって望む
べくもない。
 【7】とすれば、自然資源を有用な人工物
に変換することによって豊かさを達成すると
いう、あたかも自明と考えてきた命題は、多
くの矛盾をはらむようになってきたと言わざ
るを得ない。【8】これらは、人工化環境に
おける人工物充填率の限界であり、資源エネ
ルギーの限界であり、廃棄物処理能力の限界
である。そしてこの限界は、局所的現象にと
どまらずに、オゾン層破壊に見られるように
地球的規模にまで拡大している。
 【9】依然として工業製品の大量供給とい
う図式に頼りながら、一方で私たちは別の視
点を生み出しつつある。それは、工業製品を
使用するのは、それに潜在する機能を発現さ
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せ享受することが本当の目的であり、製品を
所有することはそのための単なる手段にしか
過∵ぎないという視点である。【0】事実、
レンタルなどの方式は次第に拡がりつつあり
、そこには製品の機能を買うという形態が生
まれつつある。
 考えてみれば、豊富な製品を所有しそれに
囲まれて暮らすというのは、それ自体は目的
でなく、それらから発現してくる豊富な機能
を享受するのが目的であるのは当たり前のこ
とであり、その所有とは、本来の機能享受の
目的達成を可能にする一手段に過ぎない。と
すれば、技術による豊かな社会の実現という
視点においては、このような製品所有は必然
的なものではない。むしろ機能の売買がより
本質的である。
 我々が日常生活において、製品を買って所
有するかレンタルで機能を買うかの選択は何
気なく行うことが多いであろう。しかしこの
ことは一見その場面場面では偶発的なことの
ようでありながら、結局は充填率の限界など
の現代技術が持つ問題に本質的に影響を与え
ていく重要な視点である。

 吉川弘之「テクノロジーの行方」による。