長文集  7月2週  ★生きることは学ぶことであり(感)  ri-07-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】生きることは学ぶことであり、学ぶ
ことには喜びがある。生きることは、また何
かを創造していくことであり、その創造に 
は、学びの段階では味わえない、大きな喜び
がある。【2】このことはどんな人の人生に
もあてはまるが、特に学問の世界では銘記す
べき事柄であろう。
 言葉をかえて表現しよう。学問の世界にお
いては学ぶこと、創造することの喜びはとり
もなおさず、考えることの喜びだと思う。【
3】どんな分野の学問でも何か新しいものを
発見し、創っていくことに本来の意義がある
。「発見」と「創造」にこそ、意味がある。
単なる知識の受け売りは学問とはいえないし
評価に値することもない。【4】さまざまな
知識は考えるための資料であり、読書は考え
るためのきっかけを提供してくれるものであ
る。
 そう思えば、知識を集めることも案外楽し
いことだし、読書も苦にならない。耳で聴き
、体で感じ、目で読んで考える。【5】考え
たあとでは聴いたこと読んだことは忘れ去っ
てもよいわけだ。覚えていなければならない
、忘れてはならないと思うと、学問する前に
疲れてしまい、学ぶこと自体が億劫になって
しまう。【6】本来、学問はそんなに難しい
ことではなく、考えることの好きな人間なら
誰でも学問することができるし、その喜びを
味わうことができるものである。
 それにしても、そもそも創造を生み出す力
はどこからやってくるのか。【7】創造性の
背景にある重要な条件とは何なのか。
 まず、こんな言葉がある。フランスの有名
な数学者ポアンカレがいった、「創造とは、
マッシュルームのようなものだ」という言葉
である。
 マッシュルームは、キノコの一種である。
【8】キノコという と、日本人の私はすぐ
に松茸を連想してしまうのだが、すなわち、
その松茸のようなものが創造だ、とポアンカ
レはいうのだ。
 松茸は、周知のように地表下に菌根と呼ば
れる根をもっている。【9】この根は、きわ
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めていい条件が与えられると次第に円形に広
がりながら発達していく。ところが、この好
条件がいつまでも続くと、根だけが発達して
キノコをつくらずに、ついには老化して死ん
でしまうのである。【0】植物に詳しい知人
の話によると、実に五百年にわたって根だけ
が発達し、枯死した松茸があるらしい。∵
 では、どうするか。発達してきた根に、あ
る時点で、根の成長を妨害する条件が与えら
れなければならないのである。その妨害条件
は、例えば季節の変化による温度の上昇ある
いは下降といった外界の条件であったり、ま
た、松やにとか、酸性の物質とかの物質的条
件であったりするようだ。このような条件が
与えられると、その妨害にもめげずに生きる
ために、根は胞子という形で種子をつくって
発達を続けようとする。そうして、やがて松
茸となるのである。(中略)
 仏教の「因縁」という言葉を創造性にあて
はめて考えてみると、「因」とは、地表下で
発達をとげた松茸の根のように、人が親から
受け継いだり、周囲の人間から学んだり、あ
るいは学校で勉強したりしながら自分の中に
蓄積していったものではないかと私は思う。
だが、この「因」だけがあれば、創造あるい
は飛躍ができるわけではない。「縁」となる
ものが必要なのである。ある時点で、松茸に
与えられる妨害条件に相当するものが、人が
ものを創造する上でも必要なのである。蓄積
を表出させる条件が要るのである。それが「
縁」である。ただし「縁」にも二種類ある。
「順縁」と「逆縁」である。実生活では、し
ばしば「逆縁」が表出エネルギーとなる。「
逆縁」という言葉を一般的な言葉に置き換え
ると、「逆境」という言葉にあてはまるので
はないだろうか。
 世の中で成功した人は、大抵、逆境を自分
の人生にプラスに取り込んでいく能力をそな
えているように私には見える。創造にも、こ
の逆境が深く関係している、といわなければ
ならない。

(広中平祐(ひろなかへいすけ)「生きるこ
と学ぶこと」によ  る。)